研究課題/領域番号 |
21K00592
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研究機関 | 中部大学 |
研究代表者 |
柳 朋宏 中部大学, 人文学部, 教授 (70340205)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 主語・目的語の非対称性 / 否定呼応 / 与格名詞句 / 言語変異 / 遊離数量詞 |
研究実績の概要 |
英語の否定呼応文における否定主語と否定目的語の分布について、古英語・中英語のコーパスを用いて調査し、統語分析を試みた。現代英語では、否定辞notと否定的不定辞(nobody, nothingなど)を含むが、否定の解釈が相殺されず否定の解釈となる否定呼応は容認されない。しかしながら、否定呼応は17世紀初頭までは稀な表現形式ではなかった。古英語から中英語における否定呼応文では、否定主語は否定辞のc統御領域内に生起するか否定辞neとの指定部・主要部関係によって認可されると論じた。否定辞がneからneとnotの併用を経て、単独の否定辞notに移行した結果、否定主語は否定辞のc統御領域内でのみ認可されるようになり、否定主語が否定辞に先行する否定呼応文は衰退したと考察した。一方、否定目的語は否定辞neのc統御領域にのみ生起する傾向があることを示した。 このような英語の「本流」における歴史変化に加え、「支流」における変遷として、現代英語においても、否定主語が否定辞に先行する否定呼応文が可能である地域変種が存在することを示し、そのような地域変種では旧来の認可方法である否定辞との指定部・主要部関係が利用可能であると提案した。また、生成文法に基づく史的統語分析において、問題となることの1つは母語話者が存在しないため、「非文」の判断ができないことである。本研究では、現代英語の地域変種に残る古法に対する文法性判断を初期英語に適用した統語分析を試みた。言語の史的統語分析における文法性判断 (直観) の欠如という問題に対し、当該構文が残る英語変種における文法性判断を活用することで、理論分析の妥当性を示すことができる可能性を示唆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
古英語・中英語における主格主語と対格目的語の非対称性が観察される現象として否定呼応を取り上げ、計量的・統語的分析を行い、否定呼応で用いられる否定的不定辞(naenig ‘not any’, no, none) の分布や主格主語と対格目的語の非対称性について論じた。否定呼応文における主語性・目的語性に関してはある程度明らかにしており、否定呼応文の実証的研究はほぼ順調に進んでいる。また、古英語・中英語における数量詞の遊離可能性の主語と目的語の非対称性に関しても、データ収集・分類を含む記述的な研究はほぼ終えている。現在は、数量詞の非対称的な遊離可能性について、生成文法に基づいた理論的研究を始めており、形態統語的な説明を試みているところである。 一方、当初は主格主語と対格目的語の非対称性がどのような統語的制約によって生じるのかを論じる予定であったが、まだ十分には進んでいない。また、古英語・中英語の与格経験者構文や非人称構文を含む、いくつかの構文で用いられる与格名詞句が、主語性と目的語性のどちらの特性を強く示しているのかについても論じる予定であったが、現時点ではまだ十分な分析が行えていない。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果の一部については、学会プロシーディングズと論文集での公開が決まっている。また、夏期に開催される研究会でも発表を予定しており、発表後は内容をさらに発展させ、学会誌への投稿を予定している。また、研究の進捗が遅れている主格主語と対格目的語の非対称性に関する理論的研究については、議論を進め、翌年開催の国際学会で発表する予定である。 古英語・中英語の与格経験者構文、非人称構文、形容詞構文などに生起する与格名詞句に関する用例を、古英語・中英語の歴史コーパスから収集し、否定呼応における生起可能な統語位置や数量詞遊離の可能性について生成文法の観点から分析する。さらに、上記の構文に生起する与格名詞句について、典型的な主語性・目的語性を示す主格名詞句と対格名詞句との比較対照をとおして、当該構文における与格名詞句の主語性・目的語性について論じる。また、こうした与格名詞句の通時的変化についても考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
海外で開催される国際学会での研究発表を予定していたが、新型コロナウィルスの影響により中止となり、出張旅費を繰越すこととなったためである。今年度については、昨年度に引き続き統語論・英語史・言語変化と多様性に関する文献を購入する予定である。それに加えて、海外で開催される国際学会への参加を予定している。文献購入費・海外出張旅費としての使用を計画している。
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