本研究では、国内の留学生に対する効果的な教材や評価システムの開発をするための基礎研究として、日本語のアカデミック・スピーキングの特徴や学習者の習得実態を探るために、日本語母語話者と習熟度の異なる学習者の論証・説明・描写の独話タスクの発話コーパスを構築した。このデータをもとに、3つのタスクにおける日本語のアカデミック・スピーキングの特徴と学習者の使用実態を探った。さらに、授業中のディスカッションでの母語話者と学習者の発話のデータベースを構築し、独話タスクでの発話が授業での発話をどの程度反映するか探った。 データベースの作成は以下の手順で行った。独話については、TOEFL iBTのスピーキング・テストに含まれる論証・説明・描写問題で、日本語に援用可能なもの40題を抽出し、日本語に訳した。このうちランダムに10題を中国人日本語学習者、アメリカ人日本語学習者、日本語母語話者に提示し、回答を録音して文字化した。そして、発話の流暢さ、複雑さ、正確さ(CAF)のコーディングをし、機能的妥当性の評価(FA)と母語話者による発話の評価を行った。ディスカッションのデータベースは授業中の発話を録音し、ディスカッションの箇所を文字化した。 これらのデータを分析したところ、以下のような結果が得られた。母語話者評価はCAFと中程度の有意な相関があり、FAとは高い相関があることが分かった。また、CAFとFAの間にも中程度の相関があった。日本語母語話者の発話に対する評価の違いは語彙的複雑さと非流暢さに現れやすいのに対し、学習者の発話は正確さと非流暢さに現れやすかった。そして、習熟度の高い学習者と低い学習者の差は、統語的複雑さに現れやすいことが分かった。
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