研究課題/領域番号 |
21K00659
|
研究機関 | 玉川大学 |
研究代表者 |
鈴木 彩子 玉川大学, 文学部, 教授 (00570441)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
|
キーワード | 国際語としての英語 / 異文化市民教育 / ELF教育 / カリキュラム開発 |
研究実績の概要 |
本研究は、英語教育にIntercultural Citizenship Education(異文化市民教育、ICE)を統合させた国際共通語としての英語(English as a Lingua Franca、ELF)教育カリキュラムの開発を目指すものである。異文化間市民性の育成は、現代社会において異質なる多様な他者と協働するために欠かせないと言われており、異文化間市民性を異文化の他者と交流するために広く使われている英語の語学教育と組み合わせて実施していくことは、今後、高等教育が社会から期待されるところであろう。 このような観点から、ELF教育カリキュラム開発のために「国際語としての英語教育に異文化市民教育を統合するための理論的・実践的根拠を提示する」ことを研究初年次である2021年度は目標とした。この目標の下、主に大学生の英語観・異文化意識・英語学習観を調査することに努めた。実施した調査は、2021年度入学英語専攻の学生(約80名)に対する言語意識アンケート調査(4月実施)、英語専攻2年生70名に対する教育的介入(6~7月実施)である。教育的介入では、4回のELF及び異文化間コミュニケーションに関する講義を行い、授業前言語意識アンケート調査、授業内容の理解度掌握のための小テスト、授業へのリアクションペーパーなどの収集を、参加者から同意を得た上で、実施した。 量的分析が可能であるアンケート調査からは、大学1年生・2年生ともに英語の多様性に関しては部分的な認識しか有しておらず、「標準英語」に対し非常に大きな信頼を寄せていることが分かった。教育的介入に関しては、質的分析が必要なデータが膨大であるため、大部分が分析途中であるが、現時点では英語の多様性に関する知識を得ることで、英語の標準性についての意識は若干柔軟になるであろうことが見えてきている。今後は、質的分析が必要であるデータの分析を進め、教育的介入がどのような影響を学生の異文化間意識に与えているかを解明していく。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
データ収集に関しては、実施を予定していた大学1年生に対するアンケート調査は計画通り実施することができた。研究対象者が所属する大学学部のカリキュラムと他大学のカリキュラムの比較調査は、他大学の選定を未だに行っている最中であり、進行は遅れている。また、予定をしていた学生へのインタビュー調査は、新型コロナ感染症拡大対応による校務の多忙化や、研究対象者の留学予定が変更になったことにより、実施変更を余儀なくされた。その一方で、当初予定していなかった英語を専攻している大学2年生に対し行った講義(教育的介入)で、量的・質的データの収集を計画し、実施することができた。この教育的介入では、量的・質的データで興味深い示唆を得ることができたため、教育的介入での調査は2022度からも継続し行っていくこととした。データ分析に関しては、データ量の関係から現在も進行中であるが、着実に進めることができている。 2021年度に実施した調査は、いずれも十分に計画し実施したつもりではあったが、英語の多様性や異文化間意識に関しては、得たかった情報を得られなかった部分がある。そのため、2021年度の調査は予備調査と位置づけることとし、調査方法を改善したうえで、本調査を2022年度から開始することとした。 研究成果の発表に関しては、2022年3月に行われた語学教育の国際学会56th RELC International Conferenceを含む複数の国際学会において、口頭発表を行うことができた。また、それを基にした研究論文の執筆も進めている。これらのことから、本研究は当初の計画より進行は遅れていると言えるかもしれないが、2021年度の調査により、よりよい調査の実施を計画することが可能となったため、全体としては順調に進行していると評価する。
|
今後の研究の推進方策 |
研究初年度である2021年度に行った調査を予備調査と位置づけ、2022年度は本調査を実施する予定である。2022年度に予定している主な調査は1)大学1年生に対する言語意識アンケート調査、2)大学2年生に対する教育的介入、3)学生(大学2年生)10名程度に対する留学前・留学中インタビュー調査、4)大学カリキュラムの比較検証、である。留学先現地調査も本研究企画当初は予定をしていたが、2022年5月現在でも新型コロナ感染症拡大の影響が大きく、海外渡航に関して勤務校ではまだ大きく制限がかかっているため、実施については検討中である。状況により可能になれば、今夏(8月または9月)か来春(2月または3月)に実施し、インタビュー調査及び観察調査を行いたい。1及び2に関しては、2021年度に予備調査を実施しているため、それらの結果に基づき、リサーチツールの改善を図っており、1 アンケートは改良したものを2022年4月に既に実施している。2 教育的介入は6~7月に予定されているため、現在、講義内容の見直しを中心に準備を進めている。3、4に関しても調査協力者や比較検証用の大学を選考中である。これらのことを進めることで、まずは留学前のELF教育カリキュラムの骨子を構築していきたい。 これら以外では、6月に短期留学より帰国をする大学3年生に対し、アンケート及びインタビューを行い、来年度に予定している留学後調査の予備調査としたい。これにより、3のインタビューの内容充実を図ることが可能となる。 研究成果発表としては、現在執筆中の論文の完成を目指す。また、7月、11月に国際学会で本研究の成果の一部を口頭発表する予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ感染症拡大のため、参加を希望していた国際学会のすべてがオンライン開催となり、旅費が不要となった。今年度はいくつかの国際学会が対面で実施されることもあり、ここで使用を計画している。また、今年度は複数のインタビュー実施を予定しているため、インタビューデータの書き起こし作業を業者委託する予定であり、ここでも使用を計画している。
|