研究課題/領域番号 |
21K00668
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研究機関 | 桃山学院大学 |
研究代表者 |
藤田 智子 桃山学院大学, 経営学部, 教授 (80329002)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 英語スピーキング能力 / ルーブリック評価 / 短時間での評価 / 発語数 / 大量受験者の同時受験 / 音声自動入力システム / グローバル人材 / テストタスク |
研究実績の概要 |
これまではスピーキングテストの「評価方法」に焦点を当ててきたが、2022年以降、教育工学研究の影響を受け、23年度は学習によるスピーキング能力の変化を測ることも視野に入れ研究を進めた。 まず、LINEアプリCLOVA Noteを使用して、被験者が入力した音声とそれを自動入力して書きおこされた原稿を同時に受け取るシステムを構築した。予備実験の被験者は大学1年生の25名で、2週間に1回与えられた課題に対して、授業内で1分考えてから携帯電話のアプリを立ち上げ英語で話す。各自が録音した音声と書き起こし原稿を教員に送る予備実験を数回繰り返した。想定外の問題は、被験者の携帯機種や契約状況により、約半分のデータが受信できない事態が発生したことであった。現在は、手元に届いた残り半分のデータを整理して分析している。 次に、「グローバル人材の会話能力を測るテスト」の評価ルーブリック作成とテストタスクの開発にようやく着手することができた。2021年に本科研に申請した時には、インタラクション能力、対人適応力、認知能力や集団形成力などをグローバル人材の会話能力と仮定していた。しかし、これらの能力だけで、評価ルーブリックやテストタスクの設定するのは不十分であるという結論に至った。そこで、まず確立された「グローバル人材の定義」を参考に評価基準を設定しようと探求したが、わが国における「グローバル人材の定義」は非常に曖昧で、統一の定義を模索するのに時間を要した。しかし、最終的には、グローバル人材とは「異文化間においてコミュニケーション能力を駆使し、問題解決能力、人間的能力、方略的能力を忌憚なく発揮することができる人材。」という定義に到達し、評価やテストタスク設定のための新しい理論的基盤が確立できた。また、その間に収集した先行研究や資料を分析・考察して「大学と企業が協調して目指すグローバル人材の育成」を執筆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
スピーキングテストの予備実験の準備は、2023年度春学期より順次進めて、4月に「人を対象とする研究倫理審査」に申請し、予備実験ならびに本実験を本務校の学生50~80人を対象に実施する申請書を提出した。2か月後に許可を得て、7月から予備実験を開始している。本予備実験は、携帯のLINEのアプリCLOVA Noteを使用して学生が音声入力し、録音した音声と書き起こされた会話をGoogle classroom に送信するというシステムがもとになっている。学生には説明用ハンドアウトを配布してアプリのインストールからデモンストレーションまで準備に時間をかけた後に実施を開始した。しかし、携帯の機種によりCLOVA NoteからGoogle classroomに転送できないというトラブルが多く発生し、最初の予備実験では25人の半分12~13人のデータが入手できなかった。秋学期にも同様の実験を3~4回実施したが、同様の問題が発生したため、現在は得られたデータを整理しながら改善策を検討中である。 また、他方ではグローバル人材の会話能力を評価するためのルーブリックとテストタスク設定の準備を開始した。「グローバル人材の会話能力」を評価するには、グローバル人材の定義やグローバル人材に必要な能力を明確にしなければならない。先行研究を検索したが、「グローバル人材の会話能力」の背景となりえるグローバル人材の定義を設定するまでに数か月の時間を要してしまった。しかし、その間の経緯を論文「大学と企業が協調して目指すグローバル人材の育成」として執筆し、本研究の背景をかためテスト妥当性を確立するには非常に有益であった。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、本研究の要である次の2点に焦点を当てて研究を効率よく迅速に実施することに専念したい。一つは予備実験で発生した問題を解決し、効率良くデータ収集して評価できるシステムを構築する事。二つめは「グローバル人材の会話能力」を測るための評価ルーブリックとテストタスクの設定である。 本研究の独自性である多数の受験者を短時間で評価するには、多くの受験者の発話を同時に録音し、その発話を自動入力して文字化するシステムの構築が欠かせない。予備実験で生じた問題を解決するため、他の幾つかのアプリを試して本スピーキングテストのシステム構築を迅速に進める予定である。 次に、試行錯誤の末に定着した本研究におけるグローバル人材の定義が、「異文化間においてコミュニケーション能力を駆使し、問題解決能力、人間的能力、方略的能力を忌憚なく発揮することができる人材。」とついに設定された。この定義から、評価ルーブリックを導き出して設定し、またテストタスクを構築する。評価ルーブリックについては、公開されている既存のビジネス英会話テストのルーブリックを参考に作成を進める。また、テストタスクについて既に先行研究から(1)知らない単語を既知の単語を使って何とかして伝える能力や、(2)動画を見てそこで行われていることを想像して伝える能力を測ることは昨年度より検討をしている。今年度は特にテストタスクの背景に、いかにして異文化理解を導入するかに焦点を当てて推進していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
21~22年度にかけてはCOVID-19感染拡大の影響でスピーキングテストの予備実験等が対面でできない時期が続いた。また、学部長職にあったため研究に専念する時間的・精神的余裕が大幅に制限されて計画が全く思うように進められなかった。この遅れを取り戻すことは非常に難しく、毎年の研究計画が次年度に繰り越される状況が続いている。 今後の使用計画として、本研究の独自性である多数の受験者を短時間で評価するには、多くの受験者の発話を同時に録音し、その発話を自動入力して文字化するシステムの構築が必要となる。このために専門知識のある大学院生に謝金を支払って、より信頼性の高いシステムに改良するサポートを依頼する予定である。次に予備実験を始め、テスト評価者2名に謝金を支払い受験者全員の評価をしてもらう。また、被験者のスピーキングテストに対する録音された音声と書き起こし原稿は保存し、能力の変化を検出するため、書き起こし原稿の点検を含むデータの整理を複数の学生や大学院生に謝金を払って依頼する予定である。 次に評価ルーブリックであるが、作成しながら他の評価者達と同じスピーキングデータを使って評価者トレーニングを実施し、少しずつすり合わせていく必要がある。そして、本年9月には、イギリスに居る研究協力者のもとに作成したルーブリックやテストタスクについてアドバイスを求めに渡英する予定もある。
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