研究課題/領域番号 |
21K00744
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
佐良木 昌 明治大学, 研究・知財戦略機構(駿河台), 研究推進員 (20770960)
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研究分担者 |
阪井 和男 明治大学, 法学部, 専任教授 (50225752)
原田 康也 早稲田大学, 法学学術院, 教授 (80189711)
森下 美和 神戸学院大学, グローバル・コミュニケーション学部, 准教授 (90512286)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 翻訳知識ベース / 品詞変数化 / 意味分類体系 / 英文の換言法 / 和文の換言法 / 訳文における情報配列 |
研究実績の概要 |
本研究では、職人芸的な翻訳事例の統語的意味的傾向を見極めながら、高度翻訳知識を集成し定式化することで高度翻訳のための翻訳文法を制定することを目指しているが、2021年度は、以下の研究成果が得られた。 Ⅰ 翻訳論の基本となる原文・訳文の情報配列についての考察: 「いま・ここ」は認知のアプリオリであるが、発話あるいは叙述では5Wsの配列順が母語の構造によって規定される。英語文型では、主語―述語から発話が起こされることからして、主体・行為・対象の表現SVOが文頭に位置する。日本語では述語が文末に位置し主語が明示されない場合もあり、述語用言に係る「いつ・どこで」が文頭に立つ。英語ではWho>What>Where>When>Whyの順が、日本語では、いつ>どこで>だれが>なにを>なぜの順である。それぞれの母語の統語構造と認知機序にしたがって原文の情報配列を訳文において前後入れ替える問題の重要性を指摘できる。5Wsの概要が伝わればよいという実際的要請の下では、配列が変わっても問題がないかもしれない。しかし、どの情報が重要かという力点の置き方、即ち原文の問題意識を正しく伝えなければならない。英文の情報配列を和訳において、いつ>どこで>だれが>なにを、と改編することは妥当性を欠く。逆に日本語作品の英訳において、日本語の叙述順序を英文秩序に改変してしまうということも起こる。こうした問題を解決するためには、α)情報配列を原文準拠とするか、β)目標言語の配列順に転換するか、その判断根拠と翻訳技法とを見極める必要がある。本研究では一部ではあるがその一斑を明らかにした。 Ⅱ 対訳データベースへの注釈付与: 翻訳技法にかかわる注釈を素材として、そこから高度翻訳知識を導出する予定であるが、その素材作りについて初年度分はほぼ整えることができた。また品詞変数化パターンを意味的に分類するための分類体系を策定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1 高度翻訳知識導出に必要な対訳DBの編纂: 対訳用例から翻訳技法を導出するための注釈つきDBが必要となる。高度な翻訳要領を開示している解説記事もあるが著作権問題があり利用不可であるので著編者の許諾を得た対訳や解説資料を用いて詳細な注釈付き対訳DBを編纂し、初年度分の作成を終えた。 2 品詞変数化の概略策定: 英語品詞の変数化と、英語動詞の時制・相各フレーズ等について変数化について変数記号を仮策定した。和文については、単独用言の連体形により修飾された名詞の場合、英語側に意味的に対応する部分があるものについて、変数記号を仮策定した。 3 意味分類体系策定:翻訳変換に係わる統語構造について品詞変数化したものを意味分類し意味類型を策定するために意味分類表が取り纏めた。日本語用言の連接であるシテ形について、大区分(付帯状態・時間的継起・起因的継起・並列)および細目26からなる意味分類体系を策定した。 4 原文と訳文の情報配列の整合は重要である。日本語では、「いつ、どこで、だれが、なにを、どうした」の順であるが、英語では、who, what, where, whenとされている。こうした言語間の叙述順および翻訳順の差異について翻訳上の問題を整理した(佐良木昌,「言語表現と認知機序との間隙」, 日本認知科学会第38回大会発表論文集, pp. 808-811, 2021年9月3日)。英語ネイティブ翻訳家Tomm Gally氏(東大)とのディスカッション(寺田寅彦の英訳)を通じて5Wsの翻訳過程について重要な示唆を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
1 高度翻訳知識導出に必要な対訳DBの拡充: 高度翻訳知識導出に必要な対訳DBに翻訳技法に関する注釈(知識ベース)を付与する作業を進め、2022年度において整備拡張する。また、高度な翻訳の要領を開示している解説記事を参考に、その翻訳技法を吟味して一般化の妥当性を検証しつつ理論化をすることを試みる。 2 対訳DBに品詞変数化を付与する計画: 上記の知識ベースに品詞変数を付与することにより翻訳文法を構築するための翻訳規則の抽出可能条件を整備する。 4 英文換言を介した和訳法の理論化: 英語名詞句に構文的要素が潜在するものの和訳法の策定(①動詞派生名詞が主語である他動詞構文を複文に換言、②無生物主語の他動詞構文において主語を条件節に換言、③ 無生物主語の他動詞構文において後置過去分詞を伴う主語を因由節に換言④英文主部名詞句の後置形容詞節から結果構文(単文)に換言/条件節に換言)
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により、旅費は支出されなかった。Zoom会議およびメールディスカッションにより代表者と分担者との間での研究論議や調整は支障なく行うことができたことから出張などに係わる費用は生じなかった。次年度において、対訳データベース拡充のために支出予定である。
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