研究課題/領域番号 |
21K00809
|
研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
水野 卓 愛媛大学, 法文学部, 特任教授 (00757643)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 『春秋』 / 君主の称謂 |
研究実績の概要 |
本研究は、いまだ伝世文献に頼らざるを得ない春秋史に焦点を当て、春秋史研究の基本史料である『春秋左氏伝』(以下『左伝』)の構造を「素材」という側面から明らかにするものである。このような研究課題について、令和3年度は、①検討対象の中心となる『春秋』と『左伝』の底本を確定する、②『春秋』における「君主の記載法」を分類するという2点を研究計画として掲げた。 ただ、今年度はコロナの影響により、海外だけでなく国内への出張が制限されてしまったため、『春秋』と『左伝』の底本を確定する①の計画は断念せざるを得なかった。そこで、②の『春秋』における「君主の記載法」を分類する研究を優先した。 『春秋』や『左伝』に関する研究書や、出土文献に関する一次史料・研究書を購入して研究を進め、まず、2021年8月28日にオンラインで開催された「第8回アジア史連絡会」において、「『春秋』の君主記載法」と題する研究報告を行った。ここでは、『春秋』に記載された君主の記載について、ある特定の時期を取り上げ、「国号+爵号」「国号+諡号+爵号」といった分類を提示した。この発表をもとに、2022年3月22日に刊行された『資料学の方法を探る』(21)に、論文「『春秋』の君主記載法-歴史記録の「主観」的側面」を発表した。 また、2022年3月25日に行われた「記憶とアイデンティティ研究」プロジェクトの研究報告会において、「史実と歴史記録のあいだ-『春秋』の「君主の称謂」を例として-」と題し、魯の君主の称謂としての「我君」や、他国の君主の称謂としての「其君」の分析結果を報告した。これをもとに、2022年3月31日に刊行された『多文化社会研究』第9号に論文「春秋時代における魯の君主観-『春秋』記載の「君主の称謂」の検討から-」を発表した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はコロナの影響により、実施計画で掲げた「『春秋』や『左伝』の底本の確定」は遂行できなかった。そのため、『春秋』の君主記載法を明らかにするべく、研究会での報告2本と論文2本を発表し、『春秋』の「君主の称謂」を手がかりとして、その記事の「素材」の【記録された場所】と【記録された時期】を明らかにした。 具体的には、①「公」を含む記事→【記録された場所】は「公」が指す君主が治める国で、【記録された時期】は「公」が指す君主が在位していた時代である。②「国号+爵号(+名前)」を含む記事→【記録された場所】は「国号」以外の国で、【記録された時期】は「国号+爵号」の君主が在位していた時代である。③「国号+諡号+公」を含む記事→【記録された場所】は「国号」以外の国で、【記録された時期】は「諡号」を持つ君主以降の時代である。④「謚号+公(王)」を含む記事→【記録された場所】は「諡号」を持つ君主が治めていた国で、【記録された時期】は「諡号」を持つ君主以降の時代である。 『春秋』という【記録された場所】=魯国と【記録された時期】=歴代君主の在位年が明らかな史料において、“すべての君主の称謂”を検討し、それらが含まれる記事について、以上のような分類ができたことから、本研究課題の中心である『左伝』の分析への足掛かりはできたと言える。そこで、現在までの進捗状況としては、「おおむね順調に進展している」と評価した。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度の成果により、『春秋』の君主の称謂に関する分類が完了できたため、来年度は課題にも掲げた『左伝』の君主の記載法に取り掛かる。特に、今年度は『左伝』の中でも『春秋』に対応しない記事に見える「君主の称謂」について検討する。コロナの状況次第ではあるが、学会発表を行う予定をしており、それを活字化することを目標にする。 また、今年度に実施できなかった『春秋』と『左伝』の「底本の確定」について、もしコロナが収束し、国内出張も可能になった場合には、この研究に取り組みたい。仮に、コロナの影響が持続し、出張が不可能になった場合には、令和5年度の計画としていた、出土文献における君主の記載法を前倒して研究を進める。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度はコロナの影響により、予定していた出張がすべてキャンセルとなった。そのため、「旅費」「人件費」「その他」で計上していた予算を使用することができず、結果として、「物品費」として書籍の購入が中心となった。 ただ、来年度については、本学の出張許可が緩和される可能性があり、初年度の研究計画である『春秋』と『左伝』の底本を確定するための国内出張ができることを見越して、次年度に研究費を繰り越した。
|