研究課題/領域番号 |
21K00817
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研究機関 | 昭和音楽大学 |
研究代表者 |
一柳 富美子 昭和音楽大学, 音楽学部, 講師 (00748105)
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研究分担者 |
田代 泰子 (野原泰子) 武蔵野音楽大学, 音楽学部, 講師 (70594654)
森本 頼子 名古屋音楽大学, 音楽学部, 非常勤講師 (50773131)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 日露音楽文化交流 / 初演データベース / ロシア大歌劇団 / 日露交歓交響管弦楽演奏会 / 山田耕筰 / ラファエル・ケーベル / 音楽と戦争 / 上海フランス租界 |
研究実績の概要 |
三人の協同作業として、初演データベースのためのWebサイト構築作業を開始した。外部委託業者と密に連携して設計図の段階から不備や追加項目をその都度洗い出しながら、2023年春現在、一般公開まであと一歩の段階にまで漕ぎ着けている。 一柳個人としては3つの分野に研究の進展を見た。先ずIMSEAに於いて、戦前のロシア・ソ連音楽家の活動を総括しつつ、明治期の東京音楽学校とロシア人音楽家ケーベルとの関係について全く未発表の事実を公開し、ケーベルが果たした歴史的意義を再評価した。次に、露ウ紛争の最中で音楽文化交流の果たす役割を世に訴えるシンポジウムや論考を発表。最後に、2023年が記念年のラフマニノフ日本受容史と問題点を国際シンポジウムで発表し、日本のロシア音楽研究の水準の高さを示した。 野原はIMSEAにて「日露交歓交響管弦楽演奏会」(1925)について発表した。山田耕筰(1886~1965)が主導した同演奏会は、ハルビンやソ連から招聘した音楽家(主に旧ソ連構成国の出身者)と山田が率いる日本交響楽協会のメンバーによる混成オーケストラによるもので、日本での本格的な交響楽運動の嚆矢と位置付けられる。ロシア語文献(当時のハルビンの露語新聞等)の調査から、これまで不明だったロシア側のメンバーの情報や、当企画とロシア音楽界の多層的な繋がりを明示した。 森本は、IMSEAにて、「ロシア大歌劇団」のワールド・ツアー(1919~22年)について発表した。同歌劇団が日本、上海、ニューヨークなどで特色あるオペラ上演を行ったことを各国の資料をもとに明らかにし、ロシア人のオペラ活動に注目することの意義を国際的にアピールした。また、同歌劇団の関西公演に焦点をあてた論文を発表した。さらに、上海フランス租界のラジオ音楽放送に関する論文を発表し、同地でラジオを通じてロシア音楽が広く聴取されていた実態を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
この科研費プロジェクトの中核を成す初演データベースのWebサイトが、外部委託業者との協同作業によって完成しつつある。しかも様々な工夫を凝らした使い勝手のよいWebサイトとなることが予想され、社会への貢献が多大なものになることが予想できる。 全国へ行う大規模アンケートに必要な書類も完成し、個人情報取り扱いに関する学内の倫理規定も通過した。そして、データ提供先として先行依頼していたNHK交響楽団および東京フィルハーモニー交響楽団からデータが届き始め、入力も徐々に始まっている点も大変喜ばしい。 さらに、個人の研究及び発表が予想以上に順調で、特に2022年10月には韓国の全州で開催されたIMSEA(国際音楽学会東アジア支部)の第6回大会に於いて、3人がチームを組んだパネル発表が実現し、現地のロシア人音楽学者らから高評価を得たこと、各人の個別研究成果として紀要や学会誌・単行本へ複数の論文が掲載されたこと、さらには、これらの成果が社会的に大きな注目を集めて、令和5年度にも複数の学会全国大会パネル登壇が既に決まっていることなどが挙げられるからである。
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今後の研究の推進方策 |
Webサイトが完成し次第、既に蓄積しているデータの入力を開始する。と同時に、必要書類が揃った初演調査アンケートを、全国の音楽団体・個人約3,700件のうち最重要団体・個人と目される100件へ発送してデータを収集し、Webサイトへ入力後に一般公開を開始する。 並行して、研究成果を国内外で発表する。プロジェクト・チームとしては、2023年6月18日に外部研究者を招いて全6名によるシンポジウム「近代日本の洋楽受容とロシア」のZoom開催が決定しており、5月末時点で80名以上の聴講申込がある。秋には11月の音楽学会全国大会にてパネル「プロコーフィエフと日本」の企画を予定している。個別には、一柳が10月に国際学会での発表を控えている。さらに、一柳がロシアへ、森本が上海へ、資料調査に訪問する予定である。 即ち、データ収集というインプットと、学会発表というアウトプットをバランス良く進めていくことになる。
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次年度使用額が生じた理由 |
1)初年度はコロナ禍及びロシア・ウクライナ紛争の為に国際学会参加や海外への資料収集が全く出来なかったこと、2)軸となる初演データベース構築が、2年目後半になって漸く軌道に乗りかけ、何処に何がどのくらい必要かが見えてきたこと。3)研究全体の見通しが付きつつあるので、次年度は成果発表の場を積極的に設けることになったこと。以上3点が理由であり、従って使用計画の中心は、海外出張費(学会・資料調査)、初演データベース作成費、成果発表経費となる。
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