研究課題/領域番号 |
21K00822
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研究機関 | 鈴鹿工業高等専門学校 |
研究代表者 |
藤野 月子 鈴鹿工業高等専門学校, 教養教育科, 准教授 (30581540)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 外交 / 婚姻 / 東部ユーラシア / 西夏 / 青唐 / 五胡十六国 / 唐 |
研究実績の概要 |
2021年度は、西夏が婚姻外交の対象とした勢力のうち、主に青唐について考察した。青唐はチベット系の民族による勢力である。当時、東部ユーラシアにおいて北宋・遼・西夏が三つ巴で対峙していた中、青唐は長年に亘って北宋に従属する一方、西夏と敵対していた。それが、1058年、遼からその公主降嫁を受けて以降、一転して北宋へ攻撃を加え、西夏とも手を組み、合計3度に及んで西夏からその公主を迎えていた。 まず、1036年、敵対していた西夏に来降してきた青唐の一勢力である一声金龍という人物から西夏の君長である李元昊へ女(娘)が嫁いだ。次に、1063年、同じく来降してきた青唐の一勢力である裕勒藏喀木(禹藏花麻)という人物へ西夏の君長である李諒祚は女を嫁がせた。続いて、1072年、青唐の君長の息子である藺逋比へ西夏の摂政太后である梁氏は女を嫁がせた。そして、1087年、青唐の君長である阿里骨から西夏の宰相である梁乙逋の息子へ女が嫁いだ。最後に、1102年、青唐の君長である趙懐徳へ西夏の君長である李乾順は宗室(一族)の女を嫁がせた。 以上の事例を通して見てみると、当時、西夏と青唐との間に明確な上下関係が存在していたとは考え難い。西夏は不仲な状態にあった青唐に対し、その内部を分裂させて自らに取り込むための手段として、及び、強い勢力を誇る青唐と結び付くための手段として、互いに女を嫁がせ合う婚姻を頻繁に利用していたと考えられる。そして、こうした現象は、自身が既に明らかとしてきた、かつての五胡十六国時代の婚姻に基づいた外交政策の在り方と非常に酷似してもいる。また、来降者に対して君長の女を嫁がせるという事例は、以前の唐代前期にも盛んに見られる。こうした形式こそが非漢民族の間で時代を通じて綿々と行われ続けてきた基本的な婚姻に基づいた外交政策の姿であると思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究自体は進めてはいるものの、やはり、当初に予想していた以上に所属学校における勤務に時間を取られているのが実情である。自身は寮や部活などに深くかかわる役職にあり、特に自身が顧問をつとめるクラブ活動が高体連にも参加しているために非常に多くの連絡作業や引率も行わねばならず、週末もなかなか時間がとれていない。2022年度はこれに加えて1年生の担任もつとめる。これと同時に、本校では今、従来の黒板に板書ではなく、パソコンやタブレットなどを用い、対面でもオンラインでもいずれにも通用する授業への改革を目指しており、自身は元々そうした方面に疎いため、授業環境を整える事に大変苦労した。このような研究以外の業務に時間を取られているため、自身が集めた史料やそこからの考察はそれなりに行えてはいるものの、それを論文化して投稿するまでには至っていないため、やや遅れていると認識している。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は主として西夏からモンゴルに対して行われた婚姻に基づいた外交政策を巡ってその背景や狙いについて考察することとする。従来では近隣諸国からの求婚を踏まえた上で唐や遼はそれを許可して公主降嫁を行い、それで以て自らを中心とした国際秩序を形成・維持する傾向にあったものの、西夏からモンゴルに対して行われた公主降嫁では西夏から公主を差し出すことによって両国の和親を求めているのである。 最終年度では主として金からモンゴルに対して行われた婚姻に基づいた外交政策を巡ってその背景や狙いについて考察することとする。この場合も先述の西夏からモンゴルに対して行われた公主降嫁と同様、金から公主を差し出すことによって両国の和親を求めているのである。この2つの事例から、当時、モンゴルの急成長に伴い、東部ユーラシアにおいて婚姻に基づいた外交政策の在り方を巡って一大転換が生じたことが予想される。よって、最後にこの点について検討し、総体的なまとめを行う。 なお、改めて唐代における和蕃公主の降嫁を振り返ると、成立しなかった事例にも婚姻に基づく外交政策の性格について重要なヒントが存在することも再確認された。よって、同時にこの点についても再検討を行い(具体的には則天武后の治世で、唐の武氏の男子と突厥の可汗の女子との間での婚姻事例の不成立)、婚姻に基づく外交政策は漢民族ではなく北方に淵源を有する王朝において従来から行われ、重要な意義を持つ、とする持論をより強固なものとすることを目指す。 加えて、自身のこれまでの特に遼代における婚姻に基づく外交政策において、他の研究者から異論や疑義も生じてきており(特に婚姻に伴う儀礼について)、今後はその点についても再確認していきたいと考えている。 これまで通り、研究方法としては一次史料を中心に可能であれば近年、続々と発掘されてきている石刻史料なども積極的に用いていきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度は当初、物品費700000万円、交通費100000円の合計800000円分の支出を予定していたが、コロナ禍などで結局、調査や学会に実際に赴くことはなかったため、交通費100000万円分を今年度に繰り越すことになった。 よって、今年度は、昨年度と同様、研究環境を整えるためのIT関連機器の購入や書籍の購入を中心に物品費を利用し、もしコロナの状況がおさまり、また担任や寮や部活などの校務以外の時間が十分に取られるようであれば、積極的に他大学への史料の閲覧や学会参加などを行うことを計画している。
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