研究課題/領域番号 |
21K00826
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
蓑島 栄紀 北海道大学, アイヌ・先住民研究センター, 准教授 (70337103)
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研究分担者 |
谷本 晃久 北海道大学, 文学研究院, 教授 (20306525)
鈴木 建治 北海道大学, 文学研究院, 共同研究員 (00580929)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | アイヌ史 / 時代区分 / 先住民族史 / 北方史 / 北海道考古学 / アイヌ文化期 |
研究実績の概要 |
「アイヌ史の時代区分」に関する研究史的検討について、着実な進展があった。研究代表者の蓑島は、北海道考古学において重要な概念となっている「アイヌ文化期」という用語の、登場前後および展開過程にかけての基本文献を収集し、学史研究の視点から分析して、「アイヌ文化期」という概念が、どのような背景のもとに、どのような文脈でもちいられ、どのような学界・社会への影響を及ぼしたかについて考察した。 上記の研究によって、およそ以下のことが明らかとなった。今日、一般的な通念とみなされがちな、おもに土器の終焉以後を指す「アイヌ文化期」という概念は、河野広道に代表される戦前の北海道史研究では使われていない。この概念は、戦後、とくに1950年代に使用されはじめ、普及した。1950年代に、今日の北海道考古学の時代区分の基盤を構築した大場利夫は、「アイヌ文化期」とそれ以前の歴史の断絶を強調せず、むしろ両者の連続面を重視している。ただし、当時の研究は、アイヌ文化の「真髄」「本質」を「先史時代の残存」とし、それ以後のアイヌ民族の歴史を正当に位置づけないという重大な問題性を含んでいる。 こうした学史的検討を踏まえたうえで、今日の「アイヌ史」に必要とされる課題も明らかとなった。すなわち現代においては、アイヌ民族の存在を過去に固着するかのような、アイヌ文化の本質を「先史時代の残存」とみなす歴史観を払拭したうえで、アイヌ史における過去から現在への連続面を改めて正当に位置づける作業が必要である。 また、研究分担者の谷本は、時代区分論の視点から、北日本の「中・近世」に関して検討した。鈴木は、ガラス玉のような「モノ」の受容の変遷から、アイヌ史の時代区分に迫った。 当該研究の成果を、新しい『北海道史』の編さんや、国立アイヌ民族博物館の展示シナリオ等の実践にどのように結びつけていくかについても、有意義な意見交換ができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルス感染症のまん延のなかで、対面による研究打合せを一回しかおこなうことができなかった。同じ理由により、当初予定していた、各地の研究者に対する学史的なインタビューも実施することができなかった。また、国立国会図書館での遠隔複写を活用できたほかは、道内および国内各地に収蔵されている学史的な文献の収集にも支障があった。 ただしその一方で、「研究実績の概要」に示したように、コロナ禍の制約のもとでも、アクセスしうる資料にもとづいた「アイヌ史の時代区分」に関する研究史的検討は、一定の成果をあげることができた。また考古資料の側面においても、研究分担者の鈴木は、北海道島におけるガラスビーズの受容の歴史が、理化学的方法によって詳細に解明されつつあることを踏まえ、物質文化の変遷からアイヌ史の時代区分にアプローチするための新しい手がかりを得た。 上記の成果の一部については講演・研究発表や論文のかたちで公表することができた。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、研究史的な文献の網羅的な収集と整理、分析をおこない、「アイヌ史の時代区分」に関する学史を詳らかにし、それらの成果を正しく位置づけるとともに、そこに内在する問題点、時代的制約など、課題の抽出を進める。文献資料による研究史調査を補うものとして、初年度におこなうことのできなかった、研究者への学史的なインタビューをおこなう。 また「時代区分論」に関する理論的問題をいま一度整理し、「アイヌ史」にふさわしい「時代区分」を論じるための布石とする。 考古資料の側面においても、北海道島におけるガラスビーズのような製品の受容の過程が、理化学的方法によって急速に明らかになっていることをふまえ、こうした新事実にもとづいて、「アイヌ史」の時代区分に新たな視角からアプローチする可能性を探る。 上記のような研究活動と並行して、当該研究の成果を、新しい『北海道史』の編さんや、国立アイヌ民族博物館の展示シナリオ等、社会的な実践にどのように活用していくことができるか、検討を深める。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症のまん延という状況下、現地調査や文献収集のための旅費、インタビューのための旅費・謝金の支出がなかったことが、次年度使用額が生じた最大の理由である。 一方で、上記の予算をあまり使用しない範囲でも可能な研究は着実に進めることができている。また、高性能な携帯型タブレット型PCを購入したことで、基礎データの収集や整理に活用できている。各研究分担者も、分担金を使用しない範囲でも可能な調査研究に取り組み、「研究実績の概要」に記したような成果をあげることができた。 次年度は、前年度に成果を上げた取り組みを堅実に継続するとともに、新型コロナウイルス感染症まん延の状況に留意しつつも、北海道内外の大学・図書館等が収蔵する、これまであまり光の当てられていない学史的な資料の掘り起こし、それらの閲覧・複写、研究者への学史的なインタビュー等、初年度にできなかった調査・研究を進めていく計画である。また、研究史的検討以外にも、ガラス玉の理化学的調査などの最新の実証研究の摂取、時代区分論の理論的考察等について検討を進め、新しい「アイヌ史の時代区分」の構想・提出へ向けた議論を深めていく。
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