最終年度である2023年度は、COVID-19の影響により、台湾大学図書館特蔵室蔵「田代文庫」の現地調査をはじめ、海外調査は実施できなかった。しかし、これまで研究代表者は、本研究に関わる主要な史料所蔵館に対して、口頭および要望書を提出するなどして、デジタル資料の公開やカラーデジタル化の促進を積極的に働きかけてきた。その結果、本研究に関わる主要な史料所蔵館のデジタル資料については、ほぼ支障なく活用できた。国内調査については、補完調査をできる限り実施し、新史料の発掘および多くの関係史資料を収集し、田代の八重山調査の足跡をたどって複数の旧集落調査を行った。新たに得られた史資料は、田代の関係史資料目録に追加し、翻刻して電子データに関連づけ、これらを分析する作業を重点的に行うことによって、海外調査を除く研究は着実に進めることができた。国内外に分散所蔵される関係史資料については、可能な限り収集して、将来的な総合目録の完成に備えた。 本研究の研究成果は、まず、国内外に分散所蔵される田代関係史資料(デジタル資料を含む)の調査によって複数の新史料を見出したことである。次に、「田代文庫」所収の「沖縄関係資料」のうち、八重山の「旧慣」調査資料の翻刻を進展させたことである。そして、田代の「旧慣」調査に基づく建議と統治政策に関する論文をまとめたことである。研究成果の一部は、台湾・国立成功大学からの招聘により、国際シンポジウム「近代台灣週邊海域」にて研究報告(オンライン)を行った。 本研究の波及的な成果として、2024年が「台湾出兵」から150年となることから、琉球漂流民殺害事件を契機として日本初の海外派兵である「台湾出兵」から「琉球処分」に至るまでの歴史的事実が、今日どのような教訓となり得るのか、という視点から論じたオピニオンを全国紙に寄稿した(2023年12月6日掲載)。
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