研究課題/領域番号 |
21K00847
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
清水 亮 埼玉大学, 教育学部, 准教授 (90451731)
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研究分担者 |
守田 逸人 香川大学, 教育学部, 教授 (10434250)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 現地踏査 / 聞き取り調査 / 近代絵図・地図 / 地理情報システム / 中世武家領主 / 拠点空間 |
研究実績の概要 |
2023年度は、5月以降、新型コロナウィルスが2類から5類に移行したため、それ以後の研究出張における現地での活動の幅が大きく広がった。したがって、御家人が重層的に配置された所領のうち、主な調査対象に定めた肥前国彼杵荘内福田村(長崎市福田地域)における現地調査を実施できた。 現地調査は2023年7月、2023年12月、2024年3月の3度実施し、そのうち、7月については長崎市福田本町(在来御家人福田氏の本拠の一つと想定される)において、自治体の当該地域担当セクション、地元の方々のご協力を得て聞き取り調査へのご対応、近現代資料の撮影実施、実地踏査のご案内などにご協力いただいた。また、入手した旧字図、明治期の福田村絵図と現状とを照合し、福田本町およびその周辺地域における旧字名・字界の推定復元を実施した。 その結果、福田村のうち、現・福田本町周辺地域における、武家領主福田氏の拠点空間については、室町期以前から戦国期における変遷の様相をおおむね図示、記述できる段階に至った。 一方、福田氏のもう一つの拠点地域と目される手熊町・柿泊町(および隣接する上浦町)についても、入手した旧字図、明治期の福田村絵図と現状とを照合し、旧字名・字界の推定復元を実施した。その結果、やはり、手熊・柿泊地域における福田氏の拠点空間について室町期以前から戦国期における変遷の様相を想定できる段階に至った。また、この作業の過程で旧字図のうち未入手部分があったことに気づき、それらを入手できた。2024年度は、当該地域の聞き取り調査によって自身の想定の当否などを確認し、福田氏の拠点空間について研究成果をまとめていきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、これまで遅れをとっていた「御家人が重層的に存在する所領」における武家領主拠点の現地調査を進めることができた。とはいえ、新型コロナウィルスが2類から5類に移行した5月以降、現地調査の計画・実施を進めたため、年度末に入るまえに、あと1、2回は現地調査を実施したかった(2023年度は、2023年に2回、2024年3月に1回実施)。しかし、2024年度中に既に予定している現地調査を実施すれば、当該地域(肥前国彼杵荘内福田村〈長崎市福田地域〉)における在来武家領主・小地頭福田氏のあり方を具体化する研究成果を出す見通しが立つと考えられる。 また、福田氏の関係文書であり、その評価がわかれる「熊野氏系図証文譲状写」(いわゆる「福田文書」)についても、その性格・成り立ちの理解について試行錯誤を重ねてきたが、それらについても一定の見通しを得ることができた。 一方、「御家人重層配置体制」の存在を示す事例の追加が顕著に進んだとはいえない。文書史料だけでなく、金石文・仏像銘・経典奥書などに見落としがある可能性、史料解釈や人名比定を再検討する余地がある。2024年度は自治体史の検索・再検索を中心に、これらの取り組みにおける課題の有無をチェックし、事例収集状況の再検証を行う。 以上、課題が皆無ではないが、とくに具体例である肥前国彼杵荘福田村故地現地調査の基盤となる旧字図の収集がほぼ完了したこと、福田村における旧字界の推定復元、現地調査の実施、それらに基づく考察が在来武家領主福田氏の拠点空間の復元を中心に大きく進んだこと、いわゆる「福田文書」の性格についても自分なりの見通しが概ねついたことをふまえ、「おおむね順調に進展している」とする。
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今後の研究の推進方策 |
(1)長崎市福田地域における旧字界の推定復元と現地調査を進める。5月に手熊・柿泊地域で現地調査を行う予定である。その後も、未調査の地域について旧字界の推定復元と現地調査を進める。 (2)前述した内容と重複するが、「御家人重層配置体制」の存在を示す事例の追加にむけて、文書史料だけでなく、金石文・仏像銘・経典奥書などの探索に見落としがある可能性、史料の読み込みがまだ不十分な可能性を考慮し、事例の収集・地域的分類・時期的分類・内容的分類を進める。 (3)「熊野氏系図証文譲状写」(いわゆる「福田文書」)について、研究報告、論文執筆に必要な可能性がある史料調査を終了後、早期に執筆を開始する。 (4)長崎市福田地域(肥前国彼杵荘福田村)小地頭福田氏の拠点空間に関する論文執筆を開始する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスが2類から5類に変更された2023年5月以降の状況を見越して現地調査の計画・実施を行ったこともあり、年度初めから現地調査を実施することができなかった。この金額は、2022年度末(2023年3月の調査出発日)に感染性の眼病罹患が判明したため、現地調査をあきらめて繰り越した分を含んでいる。現地調査を行いやすい2023年中の調査実施が2回にとどまったことと、上記の繰り越し金があったため、それらを持ち越した格好になった。 今年度は現地調査・史料調査の機会を増やし、次年度使用額の執行を行う予定である。また、大量に確保した旧字図が紙媒体のままであるため、スキャニングによる電子データ化を検討している。これらは予定外の予算執行であるが、研究成果をきちんと残すために必要であるから、アルバイトの雇用、あるいはアウトソーシングによる電子化を行いたい。その際、次年度使用額を執行対象にすることを検討している。
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