本研究は、(1)分裂から統合へ向かう16世紀日本列島における大きな時代の転換や、西日本周辺海域を含む列島諸地域の動向のなかに、尼子氏を位置づけなおし、尼子氏の急激な盛衰の背景や要因、ならびに尼子氏が時代の転換に果たした役割や意味を明らかにすること、(2)あらためて尼子氏関係史料を博捜し、未確認であった史料の調査を行い、尼子氏関係史料集の補遺を公開して尼子氏研究の基盤整備を行うこと、を目的とした。 このうちの(1)については、日本海や出雲国の内水面を基盤に活動した諸勢力、安芸国毛利氏、畿内諸勢力と、尼子氏との関係について検討した。その成果は、島根県邑南町の招待講演「本城常光と毛利氏・出羽氏」、広島県安芸高田市歴史民俗資料館の招待講演「永正・大永年間の尼子氏と毛利氏」、いづも財団の招待講演「中世出雲の水運の発達と港湾都市」、島根県古代文化センターテーマ研究検討会研究発表「尼子氏の戦争と山陰地域」、において公表した。 また、(2)については尼子氏関係史料を引き続き博捜し、『出雲尼子史料集』未掲載の史料の収集と入力を進めた。出雲大社の北島国造家伝来文書、京都の八坂神社や賀茂別雷神社などの古文書、棟札や刀剣に関する史料など、これまで尼子氏関係史料として収集されていなかった多数の史料を収集することができた。それによって(1)の検討を進めることができた。また、出雲市立弥生の森博物館のご厚意により、出雲市乙立町の笈神社棟札を実見し、尼子国久・塩冶興久の貴重な史料情報に接したことは、特に意義深かった。今回の科研を通して、『出雲尼子史料集』未収載の史料を200点近く確認することができた。 以上のような史料収集・整理をふまえ、未定稿として『出雲尼子史料集 補遺編』を印刷し、尼子氏に関して造詣の深い中世史研究者に共有し、さらに関係史料の収集を進める基盤を整備した。
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