研究課題/領域番号 |
21K00860
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研究機関 | 大阪経済大学 |
研究代表者 |
高木 久史 大阪経済大学, 経済学部, 教授 (50510252)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 貨幣 / 古貨幣学 / 文献史学 / 日本中世 / 日本近世 |
研究実績の概要 |
本研究は、15世紀後半から17世紀前半における日本貨幣史の叙述を、古貨幣(歴史上の貨幣で現在は通用しないもの)を主な典拠とする古貨幣学的方法と、文献史料上の情報を主な典拠とする文献史学的方法とを総合することにより、再構築することを目指す。全体像としては、日本の中世・近世移行期における貨幣現物の使用の実態を復元し、そのありようが当時の経済状況へ与えた影響を分析する。方法論的には、古貨幣すなわち実際に授受された貨幣現物を主な典拠とする。これにより、文献史料上の情報を主な典拠としてきた従来の貨幣史研究の成果を相対化する。加えて、当時、貨幣現物の素材・形態としてなぜそれを選んだのか、その理由の歴史的特徴、ならびにその選択をした結果が社会へ与えた影響を考察する。 目的は、日本中世・近世移行期の貨幣史の叙述を、古貨幣学的方法と文献史学的方法とを総合することで再構築することがことにある。日本の中世・近世移行期は三貨制度、すなわち金の質量単位に由来する両系単位、銀の質量単位に由来する匁系単位、そして銭の計数単位である文単位という、三つの単位体系が併存しながらも、それら相互の交換比を政府が定義する、全体をゆるやかに統合するシステム、すなわち現代日本の円単位による統一貨幣システムとは異なる統合のありようが成立する時期である。その経緯と実態を復元し、現在とは異なる貨幣システムを提示することで、現在の貨幣システムを相対化することを目指す。 当該年度には日本近世の紙幣現物に即した、その流通実態と同時代人の認識を復元する論稿の発表(共著書)、現在における日本貨幣史叙述の枠組みが貨幣現物に関する近世における知に大きく制約されていることについて語った論稿の発表(雑誌論文)、またそれらを踏まえての織田信長の貨幣政策の国際的含意に関する研究報告を実施することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
文献調査と古貨幣現物の調査を並行して進めてきた。ただし新型ウイルス感染症の蔓延状況により、予定していた海外の資料収蔵機関(コペンハーゲン国立博物館など)における調査を実施することができなかった。 成果を発表する場として、2022年9月に開催される予定のInternational Numismatic Congress(国際貨幣学会議、ワルシャワ大学)で研究代表者を代表者とするパネルセッションが採択され、パネラーと協力のうえ準備を進めている。またその他国際学会での研究発表も予定している。 なお今後の新型ウイルス感染症の蔓延状況ならびにウクライナ情勢により、渡航が困難になる可能性がある(その場合も代替となる学会・研究会報告を実施する予定)。またそもそもの問題として、緊急事態宣言等により国内における資料調査も制限される可能性がある。その際は、次記「今後の研究の推進方策」に示したように、勤務先未整理資料の調査を優先するなど、柔軟な対応をとる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
当初予定通り以下の二点で構成する。すなわち、a 古貨幣学分析:古貨幣現物から得られる情報の析出、b 文献史学的分析:aと文献史料上の情報との照合、である。 aについては、例えば、素材分析・図像分析・伝世論などが関連する。素材分析により、その金属・紙ならびに古貨幣現物の製造地や、制作者が置かれた環境・制約(素材調達・技術的制約)などの情報を得られる。図像分析により、その真贋(発行者を意味する)や、そのデザインに込めた含意すなわち発行者の意図・思想などの情報を得られる。伝世論すなわち伝来経緯そのものにより、その古貨幣現物の流通・使用の実態に関する情報を得られる。素材分析と合わせることで、産地と流通地との異同を復元することもできる。 bについては、aで得られた情報と、文献史料上の情報(貨幣現物をどのように使ったか、など)とを照合することで、より精度の高い歴史叙述をすることが可能になる。古貨幣現物から得られる情報によって、文献史料上の情報の虚偽・誤りを検出することも期待できる。 なお研究代表者の勤務先に前近代貨幣の現物が相当量収蔵されていることを確認した。それらは実質的に未整理の状況にある。その整理作業の成果を当研究にもフィードバックする。
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次年度使用額が生じた理由 |
前記の通り、新型ウイルス感染症の国際的拡大に伴い、当初予定していた海外の資料所蔵機関における調査、ならびに海外における国際学会での対面での研究報告を実施することができなかった。そのため渡航費等として見積もっていた分の予算を執行することができなかったのが、次年度使用額が生じた大きな原因である。今年度は、新型ウイルス感染症ならびにウクライナ情勢等に鑑み、可能な限りで海外出張を行う予定である。
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