研究課題/領域番号 |
21K00870
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研究機関 | 和歌山大学 |
研究代表者 |
海津 一朗 和歌山大学, 教育学部, 教授 (20221864)
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研究分担者 |
吉村 旭輝 和歌山大学, 紀伊半島価値共創基幹, 准教授 (80566331)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 西岡虎之助 / 講義録 / 東京帝国大学経済学部 / 西岡史学 / 民衆史研究 / 日本女子大学校 / 天皇の戦争責任 / 人口問題 |
研究実績の概要 |
西岡虎之助コレクションのうち、「雑文書」約10000点の目録採りを行い、コレクション全体のデータベースを完成する。その中から戦前期の西岡虎之助中心・人物相関図を復元する。2年次の研究実績は以下の通り。 1 講義ノートの翻刻作業 前年度に公開して学界の反響のあった西岡講義ノートについて、東京大学経済学部講義台本1945年後期分1冊を紙背文書ともに完全翻刻した。第2次大戦中の思想弾圧に屈することのない歴史家という西岡の敗戦後第一声を3論文で公開した。また紙背文書中にある受講生名簿および日本女子大生レポートも翻刻した。これにより東京大学経済学部の受講生の全てと日本女子大の受講生の一部が明らかになった。さらに上記史料を4本の論文に分け寄託団体の研究紀要類に発表した。本学学術リポジトリ故障中のため、当該関係研究者50人に抜き刷りを作成して配布した。 2 雑文書の簡易目録の作成 雑文書の全体像を把握するために、講義ノート・史料筆写原稿・収集写真ノート・収集実物史料に大ぐくりをして箱に入れ替え、カード採り作業の下準備を終えた。紀州研担当者(共同研究者)に情報の提供を申し入れた。 3 筆写史料集(表文書)・紙背文書の記録保存方針 紙背文書については翻刻作業を継続する。それによって表文書の史料集解体が不可避的に進行する。1万点推計の史料集(表)は「史料群タイトル」を、紙背文書は研究史上重要と思われるものをカードに記録して撮影する。全点の撮影は、不要と判断して1の作業に集中した。 4 戦前戦中の近代史文献・報告書の購入 上記1の作業を円滑に進めるため、東京大学経済学部分析用の文献を収集し、研究室内に架蔵・公開した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
紙背文書中の大正期日本女子大生レポート、および東京帝国大学経済学部1945年後期講義ノート(ともに成果公開)の近代史学界の反響が予想以上に大きく、その対応のために全体の確認作業が一部遅滞している。 具体的なトラブル内容は、2023年頭より本学の「学術リポジトリ」が更新できない状態になったため2022年度の執筆論文2本が年度内に電子媒体で発信されず、代表者による抜き刷り郵送・手作業になった。これは時間的・金銭的負担が大きい。連年のコロナ禍下においては移動が困難ななために、東京大学・早稲田大学の調査が先延ばしになったが、学術リポジトリのような電子媒体は研究遂行の命綱で予期せぬアクシデントであった。 したがって最終年はかかる翻刻公開作業・受講生調査を一旦中止して、コレクション全体の把握に邁進して挽回したい。
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今後の研究の推進方策 |
前年来の講義ノート(含む紙背文書)を通じた受講生の特定については一旦中断して、大正大学・國學院大學・日本女子大学・東京大学の分について人物相関図をまとめたい(サンプルとして国学院大については報告済)。 「雑文書」の紙背文書から書簡を復元する。書簡の多くは無年号であるから、「筆写史料集」ごとのまとまりを重視して、グルーピングする。高照度のトレース台で解読し、文書用のキットボックス(アルカリ性)に小分け保管する。書簡はすべて西岡宛のものであり、これまでの西岡文書筆跡鑑定データが通用しない。紙背文書の全体像が把握された段階でデジタル撮影によりデータ化して校合する。この作業は研究代表者海津が統括する。 復元史料の保管について検討する。紙背文書を重視して分析する今回の方法(紙背文書分離保存法)に対して、表面の中世文書(忘備帳)自体のまとまりを重視すべきという考えもありうる。この点について研究協力者を通じて、保管組織の紀州経済史文化史研究所の判断を待ち、記録保存の方法を検討する(たとえば紙背文書の分離による欠損部分を複製化して一括保管するという作業手順など)。 なお研究代表者の業務年限がこの年度であり、寄託機関である和歌山大学の自由な史料閲覧ができる最後の年度となる。作業済の西岡コレクション「雑文書」を返却して、紙背文書全文データベースを公開する打ち合わせを行う。原則として、このプロジェクトによる研究成果は(研究協力者を通じて)すべて和歌山大学紀州経済史文化史研究所に委譲する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
出張旅費と調査先の謝金、学生バイト人件費(Ⅰ室内で史料を閲覧整理する密着作業)の大半が未執行になっており、特定重要史料にシフトした作業に転換した。次年度は、当初予定の調査と整理を前半期に進めて回復したい。 それに加えて学術リポジトリが使用不可能になっている状況で、海外に対する研究成果の発信ができていない。復旧の見込みが立たないので、別途の成果配布方法(紙媒体の報告書配布)による未使用額の建て替えを行いたい。 すでにゼミ授業を活用した史料調査や成果作成、ピンポイントで調査協力を依頼するエリアマスター(協力者)の設置など、最小限の労力でフィードバックするシステムは構築している。そのラインで研究を進化させたい。
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