研究課題/領域番号 |
21K00871
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
福田 千鶴 九州大学, 基幹教育院, 教授 (10260001)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 豊臣秀頼 / 帝鑑図説 / 古活字本 / 人的資源 |
研究実績の概要 |
本年は研究計画の3年目であり、引き続き帝鑑図説の伝本の悉皆調査を行った。調査先は、尊経閣文庫、成簣堂文庫、坂本龍門文庫、近畿大学附属図書館、大谷大学図書館、関西大学図書館等に赴き、原本調査を実施することができた。また、尊経閣文庫と大谷大学図書館所蔵本は、複写により全冊を入手することができた。昨年度までに原本調査が不可となっていた日光山輪王寺慈眼堂文庫(旧天海所蔵本)は、天台宗典編纂所で調査・撮影済みのマイクロフィルムからの写真焼き付け冊子製本の形での閲覧を許可され、諸種の便宜を図っていただけので、研究が大きく前進した。さらに、前年度までの分析で蓬左文庫本が徳川家康のお手元本であるかどうかを再検討するために、蓬左文庫の再調査もおこなった。 これまでの帝鑑図説の分析は、豊臣秀頼が出版した古活字本であるとの評価から、組版された活字の差異による分析が主流であったといえる。これらに対し、本研究では史料学的分析を進め、活字のみならず、表紙・題箋・料紙・版心の魚尾・奥書・朱点や訓点の有無(読書の形跡があるか否か)等の情報を収集した。その結果、帝鑑図説は大きく初摺本と後摺本とに分けられることがわかったが、これを見極める方法を確立することができたことが今年度の大きな成果である。また、帝鑑図説の作成過程などに関しても、ある程度の見通しを立てることができている。 伝本の所在情報では、大英図書館にアーネストサトウコレクションとは別の伝本があることや、ルーベンカトリック大学にも伝本があることがわかった。またこの他にも新出情報を得ており、所在情報についても大きな成果を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画の3年目で、日本国内で帝鑑図説を所持している機関の約8割の調査を終了することができている。とくに伝来の確かな天海旧蔵本(慈眼堂文庫)の入手ができたことと、伝来が不明であった竹中重門旧蔵本が関西大学図書館に所蔵されていることがわかり、原本調査ができたことは、本研究の進捗にとって大きな成果であった。さらに、今年度、あらたに収集されたことが判明している九州国立博物館には、新年度に調査する許可がすでに得られている。残る調査先としては、大東急文庫と伝来が不明となっている数機関であるが、これらの悉皆調査を終えなくとも本研究の成果としてまとめる見通しは十分に立っている。よって、国外に所蔵された帝鑑図説に関してもこれらを調査しなくとも本研究の成果に大きな影響はないと考えているが、余裕があれば国外所蔵本の調査も遂行し、引き続き本研究の成果を盤石なものとしたい。 豊臣秀頼に関する史料については、引き続き収集を進めた。これに関しても前年度と同様に新出史料が多く得られている。いずれも未翻刻史料なので、これらをいかに活字化して年代比定にまでつなげるかが大きな課題となっているが、研究の進捗的には大きく前進していると評価できる。 豊臣政権の人的資源がどのように再配分されたのかという課題については、単著を1冊刊行し、今年度の『九州文化史研究所紀要』に論文1本を執筆することができている。また、帝鑑図説に関しては、研究報告3回(研究代表者1回、研究協力者2回)をおこない、論文化に向けて順調に準備を進めており、着実に成果をあげることができている。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は本研究の最終年度である。前年度に続き、残された伝本に関して、可能な限り原本調査を進め、史料学的情報を集積したい。まずは大東急文庫と九州国立博物館の調査を実施する予定である。所在先が不明となっている伝本に関しては、引き続き所在情報の収集にあたり、所在が確認できれば調査にでむきたい。大英図書館・ルーウェンカトリック大学・ニューヨークパブリックライブラリースペンサーコレクションの所蔵本の調査については、本科研申請時には予定をしていなかったので予算的に難しいが、他の資金を獲得するなど、可能であれば調査に出向きたい。 来年度の最終目標は、報告書を公刊することにある。そのために、これまで収集したデータに関して、集中的にデータ化をしていく作業を進める。帝鑑図説に関しては、各伝本が総覧できるようなデータを整えて提示する。豊臣秀頼関係史料に関しては、当初の予定より膨大な量の未見史料の収集ができたことから、これらをすべて翻刻紹介することはできないが、できる限り報告書に収録できるように努めたい。報告書は冊子体での出版を考えているが、研究代表者が所属する九州大学附属図書館の学術リポジトリ―に掲載して、広く利用できる環境を整える。 報告書の他の研究成果としては、来年度に出版が予定されている『帝鑑図と帝鑑図説―日本における勧戒画の受容』(勉誠出版)に、「豊臣秀頼と『帝鑑図説』(福田千鶴)、「『帝鑑図説』の出版文化」(藤實久美子)を執筆予定であり(いずれも仮題)、研究成果を社会に還元する取り組みも進める予定である。
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