最終年度の成果としては,中国甘粛省の西部,河西地域の魏晋・〈五胡〉時代に築造された磚画墓・壁画墓をめぐる調査ならびに研究を整理し,その分布や年代について詳細な検討を加え,その先後関係を明らかにした.また先後関係や分布状況の背後には,3世紀の薄葬令の影響があることを指摘した.さらに図像のモチーフや墓内位置などの検討を通じ,その背後に潜む死生観や冥界観を解明するとともに,その地域差についても考察した.基本的に墓は死後の魄の住処であり,墓室の壁面には生前の日常生活に擬えた死後の生活の一端が描かれた.しかしその一方では,墓室の壁面上部や天井などには神仙が,また墓門上の門楼には神獣が描かれて,魂の昇仙願望が示されることも行なわれた.さらにこの時代の後期になると,敦煌では,祖先祭祀が墓室内で行なわれたこともあわせて指摘した.ただし,このような図像と,その鎮墓瓶銘や随葬衣物疏など他の喪葬用文物が全く同一の死生観や冥界観を表現しているわけではないことにも注意を促した. また研究期間全体を通じては以下のような成果をあげることができた. 磚画墓・壁画墓とともに,河西地域の魏晋・〈五胡〉時代の喪葬文化を代表する鎮墓瓶の銘文である鎮墓瓶銘(鎮墓文)のうち,中国で新たに公表されたものについて,集成作業を進め,データベースを2度に分けてサイト上に公表した.またその銘文の解釈を試み,その時代的かつ地域的な特徴について明らかにした.さらにこの時代を代表する喪葬用文物である柩銘,墓券,文字磚などについても集成作業を進め,その時代的,地域的な特徴についてまとめると同時に,磚画や壁画の図像からさまざまな歴史事象の一端の解明を試みた.
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