研究課題/領域番号 |
21K00909
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
菅谷 成子 愛媛大学, 法文学部, 客員教授(非常勤講師) (90202126)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | スペイン領フィリピン / スペイン領マニラ / 近代移行期 |
研究実績の概要 |
本研究は、近代移行期のフィリピンを、グローバル・ヒストリーの観点から、東南アジア史において、一般に「伝統社会」とみなされるものが形成したとされる、近世から「近代への移行期」の事例として、その歴史的文脈に位置づけることを目的としている。具体的には、当該期のマニラの「対外貿易の多角化」によるインパクト、すなわち「近代移行期」の諸相を、フィリピン国立文書館所蔵の「マニラ公正証書原簿」等によってミクロの視点から解明する。さらにマクロな視点として「対外貿易の多角化」の下での具体的な貿易動向を明らかにし、当該期のスペイン領フィリピン社会の変容の諸相を、イギリス「自由貿易帝国」(自由貿易体制)であるアジア広域地域秩序の形成過程との関連を視野に理解することを目指すものである。 本研究計画では、各年度フィリピンに渡航しての文書館調査・収集を予定していたが、昨年度はコロナ感染症の状況下、実施することができなかった。今年度はフィリピン国立文書館において「マニラ公正証書原簿」等について、これまで入手していなかった部分の調査・収集を行った。またイギリスのアジア広域地域秩序の形成過程の一環となる「七年戦争」に関連したイギリスのマニラ占領時に、スペイン植民地政府に対しての蜂起がなされたイロコス地方で実地調査を行い、またビガン大司教座文書館での文書調査を実施するとともに、先行研究の検討作業や、新たな研究成果を反映する関連図書などの文献資料の収集や検討作業を継続した。 また研究成果の一部について、6月21日には「都市の世界史」第3回オンライン講演会で「スペイン植民地都市マニラ」と題して、また10月31日にはスペイン史学会第43回大会で「スペインのフィリピン統治をもたらしたもの--植民地国家フィリピンの形成」と題する報告を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、毎年度フィリピン国立文書館等での文書調査・収集を実施することを一つの柱とするものである。初年度である昨年度はコロナ禍の下で実施できずにいたが、今年度は、年度末に当該文書館での「マニラ公正証書原簿」等の調査・収集が実施でき、これまでの調査研究で入手していなかった近代移行期の変容の諸相にかかわる部分の「マニラ公正証書原簿」等を調査して入手することができた。 さらにイギリスのアジア広域秩序の形成過程においてスペイン領フィリピンが被った直接のインパクトに関連して、イギリスのマニラ占領期に、スペイン植民地政府の硬直的な支配に異議を申し立てる蜂起が生起したイロコス州ビガン等において実地調査を行い、またビガン大司教座文書館での史料調査を実施できたことは収穫であった。 しかしながら、これまでの研究成果を取りまとめて投稿して公表することを予定していたが、それは実現できなかったため、やや遅れているとした。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、次年度は本研究計画の最終年度であるので、研究成果の取りまとめを行い、公表することを念頭に計画を進める。 まず昨年度までに入手した「マニラ公正証書原簿」等の文書史料の整理・分析作業を継続して、その当時のスペイン植民地社会に生きた個々人の活動を反映する個別事例の蓄積を通して、ミクロな視点から近代移行期のスペイン領マニラ社会の変容の諸相について具体的な像を提示するよう努める。さらにマクロな視点として、スペイン本国のブルボンの改革の下にあった「スペイン帝国」の一部であったスペイン領フィリピン/スペイン植民地政府が、アジア広域地域秩序の形成を進めていたイギリスのプレゼンスにいかに対応していったのかについて「対外貿易の多角化」を手掛かりに、先行研究や「マニラ税関文書」等の分析や検討を通じて、スペイン領フィリピンをイギリスによるアジア広域の歴史的文脈に位置づける作業を進める。 上記の研究の推進方策に関連して、今年度はコロナ禍の関係から年度末に実施したフィリピン国立文書館等における文書調査・収集作業について、次年度は、夏季休業等の期間を利用するなどして「マニラ公正証書原簿」等の関連文書史料の追加・補充調査・収集を実施して個別事例の蓄積に努めるとともに、入手済みの史料の分析・整理作業を進める。 また研究成果の公表については、まず愛媛大学人文学会講演会において報告することを予定している。また当該学会の発行する学術誌や、その他の媒体に投稿して報告するなどことによって、その成果の一部を明らかにすることを予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
今回に関しては、前年度にコロナ禍で実施できなかったフィリピンでの文書調査の充実を図り、かつ日本円の為替レートや航空運賃の高騰などがあり旅費支出が大きくなった。他の支出については、旅費額増大への懸念から控える部分があった。また現地文書館での入館料や史料複製料が予想より低額であったことなどから次年度使用額が生じることになった。次年度については、次年度使用額を含めて文書館調査・収集にかかる費用を中心的に考慮しつつ、最終年度であるので成果の取りまとめに必要な経費の支出を考えている。
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