本研究は、スペイン領フィリピン史を、グローバル・ヒストリーの観点から、東南アジア史において、一般に「伝統社会」とみなされるものが形成したとされる近世から「近代への移行期」の事例として、その歴史的文脈に位置づけることを目的としている。具体的には、当該期のマニラの「対外貿易の多角化」によるインパクト、すなわち「近代移行期」の諸相を、フィリピン国立文書館所蔵の「マニラ公正証書原簿」等によってミクロの視点から解明する。さらにマクロな視点として「対外貿易の多角化」の下での具体的な貿易動向を明らかにし、当該期のスペイン領フィリピン社会の変容の諸相を、イギリス「自由貿易帝国」(自由貿易体制)であるアジア広域地域秩序の形成過程との関連を視野に理解することを目指すものである。 本研究計画では、各年度フィリピンでの文書館調査・収集を予定していたが、初年度はコロナ禍により実施できなかった。感染症が一段落した昨年度末および今年度(令和5年度 11月)はフィリピン国立文書館において「マニラ公正証書原簿」等について、これまで入手していなかった部分の調査・収集を行った。また引続いて先行研究の検討作業や、新たな研究成果を反映する関連図書などの文献資料の収集や検討作業を継続した。 研究成果の一部について、5月20日「近代移行期のスペイン領フィリピンについて」(愛媛大学人文学会)、12月16日「近代移行期のスペイン領マニラに生きた人びと」(四国東洋学者研究者会議)、3月20日「近代(移行期)マニラの諸相 植民地国家フィリピンの首都」(専修大学)の報告を行った。また「近代移行期のスペイン領マニラ社会の諸相」『人文学論叢』(25号)、(23年12月)、「『マニラ公正証書原簿』(1800-01年合綴冊)にみえる19世紀転換期のスペイン領マニラ社会」『資料学の方法を探る』(23)、(24年3月)を発表した。
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