研究課題/領域番号 |
21K00915
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研究機関 | 大阪経済法科大学 |
研究代表者 |
伍 躍 大阪経済法科大学, 国際学部, 教授 (60351681)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 前近代中国 / 行政訴訟 / 官僚制度 / 法制史 / 社会史 |
研究実績の概要 |
進捗は概ね順調である。 令和3年度においては、「行政法法源の構成」について研究することは本研究の年度計画である。この計画を実現させるために、清代の「国制総覧」である『欽定大清会典』をはじめ、則例類の清代中央政府による編纂物から、行政訴訟にかかわる資料を収集した。とくに、国立公文書館がオンラインで公開している清代の『上諭條例』6種を収集した。これらの條例は特定の行政行為を規制するものであり、清代における行政法法源の全容を把握するために、非常に重要な意義を有する文献である。このほか、東京大学東洋文化研究所が所蔵する『(光緒)欽定銓選漢官則例』と『(光緒)欽定漢官品級考』を複写して収集した。海外においては、台北にある故宮博物院が所蔵する清代軍機処档案から行政訴訟、とくに行政処分を受けた官僚はその地位の保全を訴える訴訟資料を収集した。なお、『光緒朝シュ批奏摺』と清代の官僚名簿ー縉紳録をも購入した。 行政訴訟、とりわけ勤務中の規定違反により処分を受けた官僚の個々の事由を把握するために、東京大学東洋文化研究所が所蔵する『京外私罪獲咎情節較重及加倍半不准捐復降捐廃員冊』と『京外因公獲咎降革廃員冊』を精読して、前者から147名、後者から18名の官僚が処分を受けた際に付けられた「考語」、つまり勤務評価を把握することができたほか、処分のために適用した法律や規定、および処分の具体的な内容も把握することができた。 行政の現場における訴訟の実態について、論考・「順天府档案に見る宝テイ県の中間団体と郷保」(『東洋史研究』、80巻3号)にて公表した。当該論考は、地方行政の現場における中間団体の形成とその役割、特に衙門から交付された行政事案を遂行する際に発生する紛糾の様態と訴訟を通してその紛糾を解決する事案を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前近代中国における行政訴訟においては、民事法法源の「情理法」と刑事法法源の律例に相当するような、如何なる構成を有する法源のもとで審理をしたのか、ということを究明するは本申請研究の目的の一つである。 令和3年度においては、当該目的を実現させるために、清代の「国制総覧」である『欽定大清会典』、とくに康煕朝『欽定大清会典』の「考成」、嘉慶朝『欽定大清会典」の「処分例・大計統例」を中心に、康煕朝の『欽定処分則例』と『六部続増則例』などの清代中央政府による編纂物から、行政訴訟にかかわる資料を収集した。収集したこれらの行政法規の実施状況を把握するため、清代順治朝と康煕朝の実録を中心に、銭糧関係すなわち税金徴収の怠慢などで実際に官僚の処分を行った事案も収集した。 このほか、先に説明したように、国立公文書館がオンラインで公開している清代の『上諭條例』6種と東京大学東洋文化研究所が所蔵する『(光緒)欽定銓選漢官則例』と『(光緒)欽定漢官品級考』、および故宮博物院(台北)が所蔵する清代軍機処档案から行政訴訟、とくに行政処分を受けた官僚はその地位の保全を訴える訴訟資料を収集した。 すでに公表した論考のほか、行政処分による人事異動の状況を把握するために、清代の官僚名簿、つまり縉紳録をも収集した。なお、収集した縉紳録をもとに、清代の地方官僚人事制度についての論考を執筆して、安徽大学徽学研究が刊行する学術誌『徽学』、および中文大学新亜研究所(香港)が刊行する学術誌『新亜学報』にそれぞれ投稿して審査をうけている。 しかし、COVID-19の影響で、当初、計画した現地の協力者を通して中国第一歴史档案館が所蔵する清代の吏部档案の複写収集ができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
基本的には計画通りに推進したい。つまり、令和4年度においては、国家が定めた考成・処分制度の解釈をめぐる官僚個人の訴訟、とくに処分された官僚がその処分案を朝廷に上申した上司を相手取り訴えた事例を中心に、収集してきた文献史料を精読することを通して、こうした訴訟の実態を把握することに努めたい。 海外での資料調査収集は不確定要因が多く、その実施が困難であることを配慮して、引き続き、国内を中心に文献史料を収集するが、海外現地の学者の協力を得ながら可能な限り必要な文献史料を収集することを計りたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
【次年度使用額が生じた理由】①本来、中国第一歴史档案館が所蔵する清代の吏部档案を現地の協力者を通じて複写収集することを考えていた。しかし、「整理中」ということで、複写はもとより、閲覧することさえできなかったこと。②こうしたことにより、資料整理のための人件費の発生がなかった。③COVID-19の感染対策のため、京都大学文学研究科図書館のほか、十分な資料調査、とくに東京方面での資料調査ができなかったこと。 【今年度の使用計画】」①前項の①について引き続き情報を収集して、可能であれば引き続き複写収集を続行すること。②収集した文献資料を整理するための人件費を使用すること。③日本国内での現地調査をして資料の収集を行うこと。
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