研究課題/領域番号 |
21K00917
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
中田 潤 茨城大学, 人文社会科学部, 教授 (40332548)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 価値保守主義 / 新しい社会運動 / エコロジー / 緑の党 / 左派オルタナティブ / 市民社会 / ドイツ / 協同主義 |
研究実績の概要 |
本研究は,1960-80年代の西ドイツにおいて生じていた市民社会の変化,そしてその市民社会と国家の接点に存在する政党の機能変化とその歴史的な位相について検証することを目的としている.具体的な題材として,いわゆる「新しい社会運動」という概念で理解される各種の市民運動(Buergerinitiative),および「緑の党」へと糾合していく多様な環境・左派政党をとりあげる.これらの西ドイツの政治空間での行動を検証することにより,この時期の西ドイツ市民社会・地域社会の再編過程を解明するとともに,それをハイポリティクスの次元へと媒介する政党のあり方そのもの,そしてさらにはデモクラシーのあり方,換言するならば後にリベラル・デモクラーとして理解されるものへ変化していったプロセスを実証的に解明していく予定である. 具体的に研究を進めて行く上でのサブカテゴリーについては,現在の進捗状況の欄で説明したが,2024年度は昨年度に引き続いて,彼らが独自に発行していた出版物の分析を中心に「非教条主義的新左翼」などの左派オルタナティブ系の思想的潮流の検証を行った.それは脱物質主義などの新たな社会変化の影響を受ける形でのそれは左派陣営内の分化の過程であったと暫定的に結論づけた.それは換言するならば「非教条主義的新左翼」が「価値保守主義」や「反権威主義的人智学」などの影響により「教条主義的新左翼」から思想的・運動的に分離していく過程であったと言うことができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では以下の4点について解明することを目的としている. ①市民運動・環境政党に合流していった各種の思想的諸潮流の解明.② 時期的な変遷を含めた形での主要な市民運動・環境政党の組織構造および構成員の社会構成,政治的主張の解明.③市民運動・環境政党のドイツ国内の地域的な特徴の解明.④新自由主義に対置される協同主義的社会秩序というメタ概念に拠りつつ,1960年代から1980年代の西ドイツの国家と社会の関係の変化のプロセスを解明する. 全ての項目は原則として並行して研究が進められていく予定であるが,その問いの性格上,①②の研究が先行し,③④がそれに続く形で研究を進めていくことを計画している. 現状においては,研究実績の概要で述べたように① 「価値保守主義」ならびに「反権威主義的人智学」の概略については既に検証を終了している.本年度は主としてベルリン・フリードヒスハインの緑の党文書館に所蔵されている史料を利用して,②③の作業にあたる「非教条主義的新左翼」などの左派オルタナティブ系の思想的潮流の検証を行った.具体的には「社会主義同盟 (SB)」や「多色リスト・ハンブルク(BuLi)」などの史料を収集したが, 厳密な史料分析は今後の課題である.
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今後の研究の推進方策 |
現在までの進捗状況において述べたサブカテゴリー①-④を,集中的な現地での資料収集によって進めていく. ② に関しては,具体的には以下の3つのタイプの組織が検証対象となる.1)「リューヒョウ・ダンネンベルグ市民運動」,「リューネブルガーハイデ南部地域市民運動」などの市民運動組織.2)「ブレーメン緑のリスト」,「ハンブルク多色リスト」,「緑のリスト・環境保護」,「緑のリスト・シュレスヴィヒ・ホルシュタイン」,「緑の行動・未来」,「独立ドイツ人共同体」などの環境保護ないし左派オルタナティブな主張を掲げる地域政党.3)「社会主義同盟(SB)」「共産主義同盟(KB)」,「シュポンティ」といった「セクト」主義的な政治組織. ③に関しては,①,②の観点から検証を進めることで,社会運動・政党結成の展開において一定のパターンが明らかになってくると考えている.暫定的に1)北ドイツモデル:ハンブルク,西ベルリン,2)南ドイツモデル:バーデン・ヴュルテムベルク,バイエルン,3)混合型:ノルドライン・ヴェストファーレンを設定している.各地域での活動を検証することでモデルの有効性の検証とその精緻化を図る予定である. ④に関しては,本研究では「(新)自由主義」と「協同主義」という2つの社会秩序構想の理念型と設定している.それに加え,ドイツからさらにヨーロッパ,日本へと視点を広げたときに見えてくる「共和主義」的および「(新)自由主義」的な社会秩序観がそれとどのような関係に立っているのかをも検討していく予定である.こうした分析概念を設定した上で1970年代がとりわけリベラル・デモクラシーと呼ばれる現代の民主主義社会が確立していく上でいかなる位置にあったのかを検討していく予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由):2021・2022年度にドイツでの史料調査を計画していたが,コロナ関連の諸事情のために実施に移すことができず,調査が後ろ倒しになることになった.その結果として2022年度に予定していた調査も2023年度に実施することになった.そのため予算の執行を次年度に繰り越すことにした. (使用計画): ニーダーザクセン州におけるGLUの結成と緑の党への移行のプロセスを再構成するために必要な史料が,ベルリンにあるハインリヒ・ベル財団文書館,ハンブルク社会問題研究所,ニーダーザクセン州立中央文書館,ゴアレーベン文書館等に所蔵されている.これらの文書館・図書館で史料収集を行うために,海外調査を行う予定である.
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備考 |
著書のインタビュー形式の紹介.
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