研究課題/領域番号 |
21K00918
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
姉川 雄大 千葉大学, アカデミック・リンク・センター, 特任講師 (00554304)
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研究分担者 |
重松 尚 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (90850917)
門間 卓也 関西学院大学, 文学部, 研究員 (90868291)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ファシズム / 権威主義 / 戦間期 / 東欧 / クロアチア / リトアニア / ハンガリー |
研究実績の概要 |
戦間期の東欧諸国(3国)における権威主義政治について、(1)ファシズム体制国家に隣接する「小国」諸国における、対外関係と国内体制の関係をめぐる同時代の論点と「選択肢」がどのようなものだったか、また、(2)東欧権威主義体制がかかえる西欧自由主義諸国ともファシズム諸国とも共通する同時代的な政策課題と社会史的な論点がどのようなものであるか、の2点を明らかにした。 (1)については、ユーゴスラヴィアにおける対イタリア関係とリトアニアにおける対ドイツ・対ソ連関係が、体制の維持や変化の選択をめぐる戦術や議論とどのような関係にあったかを、政治勢力や政治家集団を軸に解明した。(2)については、ハンガリーにおける福祉政策と人種主義政治、さらに女性の地位をめぐる政治の形成する分かちがたい相互連関構造の様相を明らかにし、戦間期における再分配をめぐる政治と排除・序列化の政治の関係におけるいくつかの論点を示した。 以上の点はいずれも、日本国際政治学会2021年度研究大会において、研究成果の発表を行った。またリトアニアについては、特に対ナチ協力に着目してより具体的な実態の解明への道筋を探求し、これについても発表する機会を得た。 これらに加えて、以上の問題意識と成果を踏まえた場合、「リトアニア史」像、「バルト史」像や「戦間期ユーゴスラヴィア史」像がいかに新たなものとして可能になるか、どのような論点の中で新たな歴史研究が求められ、また可能なのか、さらに、ファシズム・権威主義の歴史が現在におけるどのような政治資源としての歴史像として機能しているのか、という点についても、事典項目や翻訳解説のかたちで成果を発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
計画によれば本年度は主に現地史料調査を行い、次年度におけるより本格的な現地史料調査および最終年度における成果の取りまとめと発表の予備的・基礎的作業とするはずであった。しかし、新型コロナウィルス感染症およびその対応策をめぐる状況の研究対象国現地における推移が不安定だったため、当該調査を延期せざるを得なかった。この点で、計画に比べて研究の進捗は最低1年間遅れている。 そのため、本年度の予定にはなかったが、国内において入手可能な資料(現地からの取り寄せ、オンラインで入手可能な現地史料を含む)のみを用いた調査・研究の成果をとりまとめ、研究会・学会等で公表した。この成果発表は、より本格的な資料調査において明らかになることを、どのような文脈に位置づけ、どのような課題に応えるものとして整理するかを論じたものであり、プロジェクト最終年度に予定していたものの前倒しとなる。この点で、当初予定よりも進んでいる。 以上のように、計画に比べて停滞している点と進展している点があるが、本年度取りまとめた成果はあくまでも以後の研究プロジェクト遂行の基礎となるものであり、史料調査の結果を受けて、再度その意義の考察を行う必要が生じることが予想されるため、このような進捗状況の評価となる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は現地史料調査が効率的・生産的に行える適切なタイミングや、その実現の可能性を慎重に探り、実施する必要がある。これが実施できた場合、2021年度に行う予定であった史料状況の予備的な調査と、2022年度に予定していた本格的な史料調査を併せて行い、またそのための渡航前の事前調査を効率的に行う必要がある。 また、感染症だけでなく、ウクライナ情勢の影響を考えなければならない可能性もあり、研究遂行のための環境・条件はさらに流動的であることも考慮し、現地文書館史料調査を必要としないが当初研究課題やそこに連なる何らかの新たな課題になるべく接近する方法を検討する必要もある。これについては年度当初の研究打ち合わせで検討する。並行して、研究代表者の異動に伴う研究環境の再構築にも早めに着手する。 内容に関しては上記打ち合わせ結果によって変更もありうるが、大枠として、(1)すでに国際環境と内政の関連を政治勢力・政治戦術・政治思想などの観点から明らかにしている事例について、体制が直面し対処を要請されていた内政的な諸課題との関連をどの程度比較可能な形で調査しうるか、(2)国内の社会問題とその対応に関する構造を明らかにしている事例について、その実態のなかから国家体制の性格をどの程度比較可能な形で描きうるか、という点が当面取り組む主な課題となる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究プロジェクトにおける調査対象地であるヨーロッパ、特にその中東部地域において、新型コロナ感染症の流行およびそれに伴う渡航や現地文書館等の利用制限が、当初の予想にくらべて厳しい状況となったため、状況の緩和を見込んだ年度後半における現地調査を次年度に延期しなくてはならなかった。次年度には本年度の繰り越し分と合わせ、予定より長期間の調査を行うために、本年度分をあわせて使用する。とはいえ、年度末におけるウクライナ情勢の激変の影響もあって渡航費・現地滞在費の予想外の高騰が生じ、本年度・次年度合計の調査期間・調査回数を縮減して次年度に行う必要も生じ始めたため、調査の効率化や対象の絞り込みを検討したうえで、効果的な調査・分析につなげる。
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