研究課題/領域番号 |
21K00920
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
岩井 淳 静岡大学, 人文社会科学部, 名誉教授 (70201944)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ピューリタン革命 / 名誉革命 / アメリカ独立革命 / 大西洋世界 / 複合国家 / ブリテン帝国 / 高大連携 / 歴史教育 |
研究実績の概要 |
本研究は、近世のブリテン帝国史に、複合国家論や英米交流史、英米宗教史の視点を取り入れ、ピューリタン革命や名誉革命の情報がアメリカ植民地に伝播し、17世紀の二つの革命が18世紀の独立革命へと連鎖したことを解明するものである。 そのため2023年度は、オンライン史料集のEarly American Imprintsなどを使用しながら、ピューリタン革命を導いたイングランドの宗教思想、わけてもピューリタニズムが北米の植民地に渡り、「コモンウェルス」と呼ばれた自治的で共同体的な植民地建設に貢献したことを探究した。この点は、17世紀のピューリタン革命と名誉革命が、18世紀のアメリカ独立革命に受容されたプロセスを解明した2022年度の研究を継承するものである。2021年度は1750年1月30日のチャールズ1世処刑百周年記念日になされた説教史料を中心に分析・考察したが、2023年度は時代を少し遡り、17世紀から18世紀前半における英米の宗教的伝播と交流を検討した。 本年度の主たる研究成果として、2023年8月12日の藤女子大学キリスト教文化研究所研究例会において「英米のピューリタニズムとコモンウェルス」を発表した。また、2023年9月12日に日英韓の歴史家会議(British East-Asian Conference of Historians)において「Relativising Periodisation: History Education, "Passive Periodisation", and Composite States」というタイトルで日英の歴史の時代区分を複合国家の視点から論じた。これらはピューリタン革命・名誉革命・独立革命という3者の関係を意識したものである。こうしたテーマを発展させ、今後も17世紀の二つの革命を18世紀の独立革命へと繋げる研究を続けたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述した2023年度の研究では、近世の大西洋世界を舞台にして、ブリテン諸島とアメリカ植民地の密接な関係に注目しながら、ピューリタン革命や名誉革命の情報がアメリカに伝播したこと、17世紀の二つの革命が18世紀の独立革命へと連鎖したことなどを解明した。 他方、2020年度からのコロナ禍が影響したこともあり、21年度は当初予定していた連合王国や合衆国での史料調査を実施することが難しかった。のみならず、国内での史料調査に関しても、首都圏や関西圏への移動が制約されたため、各地の大学図書館や研究施設の利用が十分にできなかった。 しかしながら2022年度以降になると、予定された学会や研究会がオンライン方式や対面方式で再開され、各地の図書館や研究施設の利用も可能となった。そのため、前記の2023年8月12日の藤女子大学キリスト教文化研究所主催の研究発表、同年8月29日の台湾国家教育研究院での歴史教育に関する報告、同年9月12日の日英韓の歴史家会議(British East-Asian Conference of Historians)における英語報告などを対面方式で実施することができた。また、2023年9月には学会報告に加えて、ロンドン大学歴史学研究所(IHR)を中心に史資料調査に従事することができた。加えて、オンライン史料集を活用して史資料収集を続けることもでき、その成果を学会や研究会で発表したので、本科研の3年目は「おおむね順調に進展している」と位置づけられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後も、大西洋世界を舞台に、近世のブリテン諸島とアメリカ植民地が密接な関係を維持し、ピューリタン革命や名誉革命の情報がアメリカに伝播し、17世紀の二つの革命が18世紀の独立革命へと連鎖したことを、一次史料を用いて実証的に解明したい。 とくに最終年にあたる2024年度は、Early English Booksに収められた長老派や会衆派、バプティスト派、クェーカー派に関する記述史料を分析すると同時に、渡英し、帝国史関係の一次史料としてBodleian LibraryとGuild Hall LibraryとEssex Instituteに所蔵される移民関係の史資料を調査する予定でいる。また、国内の東京大学、とくにアメリカ太平洋地域研究センター、慶應義塾大学、京都大学などを対象とした史資料調査も引き続き行い、これまでは一国史的に研究されたイギリスとアメリカの各革命を連続的に捉えることを課題としたい。 同時に、アメリカ独立革命がピューリタン革命や名誉革命から継承した諸点を明らかにするため、18世紀の帝国史や宗教史に関する史料分析に力を入れ、学会報告や個別論文の執筆を進める。そのため、America’s Historical Imprints に収められた独立革命関係の史料収集と分析を進める。また渡米して、ボストンを中心に資料調査にも従事する予定である。帝国史関係の一次史料として、American Antiquarian SocietyやBoston Public LibraryやMassachusetts Historical Societyに所蔵される宗教史や移民関連の史料を調査・分析することも視野に入れている。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度から始まったコロナ禍が21年度も継続し、21年度に予定していた連合王国や合衆国での海外資料調査を実施することができなかった。のみならず、国内での史資料調査に関しても、首都圏や関西圏への移動が制限され、各地の大学図書館や研究施設の利用が十分にできなかった。そのため計上していた海外旅費と国内旅費を執行することが困難であった。 しかしながら、2022年度以降はコロナ禍が収束したので、遅れを取り戻すべく、2022年と23年の9月に海外(イギリス)での史資料調査を実施し、また国内での史資料調査を再開したことにより、海外旅費と国内旅費を有効に使用することができた。2024年度もまた昨年度に引き続きイギリスで、さらにアメリカで海外調査を実施する予定である。そこで収集した史資料を分析・考察するため、書籍などを購入する物品費、史資料を整理するための人件費や謝金も必要となる。以上から、本研究を遂行するための旅費、物品費、人件費の使用を計画している。
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