研究課題/領域番号 |
21K00922
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
小坂 俊介 名古屋大学, 高等研究院(文), 特任助教 (10711301)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ローマ帝国 / セナトール貴族 / 内戦 / 古代末期 / ガリア |
研究実績の概要 |
計画の初年度である2021年度は主に学説史および史料調査・関連文献の収集を実施した。その際に検討したのは、4世紀後半から6世紀のガリア地方エリート層の政治動向解明という本研究の目的を念頭に置きつつ、何が考察されるべきか、また十分な分析を可能とする程度の史料が伝存するトピックは何かである。その作業から、380年代のマグヌス・マクシムス反乱、410年代のコンスタンティウス3世反乱、420年代のウァレンティニアヌス3世治世とそれぞれにまつわる問題群が浮かび上がってきた。 また、5世紀半ば以降のガリア都市社会を理解するうえでの一つのキーワードである司教支配についても検討を進めた。ガリアにおけるローマ帝国支配終焉後、地方名望家層は司教職に活路を見出していく。そのような司教の一人であるオーセール司教ゲルマヌスの伝記は、彼が未だ帝国支配の回路のなかで行動していたことを示していた。 加えて、4世紀末北アフリカの武官ギルドーの「反乱」とその記憶に関する論文を執筆した。皇帝側が発したプロパガンダは、ギルドーを帝位を狙った簒奪者あるいはローマ文明の部外者として描き出していた。他方で事件の舞台となった北アフリカでは、教会内紛争においてギルドーとの協力関係が非難の材料として繰り返し想起されていた。反乱の記憶は中央政界のプロパガンダに加えて、現地社会特有の文脈によっても形成された。 最後に、6世紀の歴史家ヨルダネスの作品『ゲティカ』の翻訳・註釈作成を行なった。この作品はゴート人の歴史をその起源から著者の同時代に至るまで扱う。本研究にとっては4世紀後半~5世紀の帝国政治史に関する貴重な情報源である。今年度はテクスト全体のおよそ5分の1にあたる1~66節までを訳出し、学術誌に投稿、掲載決定となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は当初計画に基づき、国際学会での研究報告、およびその一部に基づき論文を作成することができた。その一方で、5世紀ガリアのセナトール貴族の動向を知るための帝国法令・教会会議決議録の分析、またプロソポグラフィ調査を進めることができていないことから、「やや遅れている」と自己評価する。これは論文執筆に際し当初計画になかった作業として、北アフリカのキリスト教教会史関連史料および先行研究の読解の必要が生じたためである。ただし、その作業によってガリアのセナトール貴族の政治的動向との比較材料が得られたことは断っておきたい。またヨルダネス『ゲティカ』の翻訳作業は、次年度以降の5世紀前半イタリア政治史研究を進めるための基礎的知見につながっており、本研究にとって有益であると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
上述したような今年度の作業を通じて、今後の考察対象となる地域・場所を絞り込むことができた。特に、(1)380年代のトリーアを中心とするガリア北部、(2)4世紀末~410年代のアルルを中心とするガリア南部である。420年代以降についてはさしあたりウァレンティニアヌス3世治世が中心となるが、更なるトピックの絞り込みが必要と予想される。従って、まずは1・2のそれぞれについて、教会会議決議録の分析とプロソポグラフィ調査を行なう。教会会議決議録については、それぞれの教会会議で何が問題とされたのか、そこに教会組織内のいかなる対立・利害関係が反映されているのかを、プロソポグラフィ調査を併用しつつを明らかにする。また、教会組織内の政治的対立関係が教会会議の前後で変化しているのか否かを、プロソポグラフィを用いた教会内人脈の追跡調査によって明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの流行に伴い国際会議がオンライン形態に変更されたため、旅費として支出予定であった金額の余剰が生じた。来年度以降は海外渡航の条件緩和が見込まれるため、国際会議への参加、もしくは海外での文献調査のための旅費に充てる。
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