研究実績の概要 |
本研究は、中世イタリア都市の市民概念を、市民の輪郭部に位置した周縁者(外国人、高利貸し、追放者)に焦点を絞り、彼らがどのように諸権利を享受し、また剥奪されたのかに注目して動態的に解明するものである。初年度である今年度は、最新の先行研究、特に欧米で進められている中世都市の市民権に関する研究や、周縁者に関する研究を幅広く検討し、実証研究の土台となる理論的視座の構築に努めた。 都市ルッカにおける外国人、高利貸し、追放者の存在を、リスト系資料や裁判記録を基に把握した。外国人については、1356年の法廷調査と1366年の服従宣誓時に作成されたリストから、出身地や職業などの基礎データや人口動態を整理した(Archivio di Stato di Lucca, Capitoli 55;Curia dei Rettori 21)。追放者は、罰金徴収用に作成された追放者リストから、その人数や復帰までの期間を明らかにした(Archivio di Stato di Lucca, Sentenze e bandi, 540)。高利貸しについては、当初、課税台帳やアルテ資料を基に明らかにすることを考えていたが、そこからは一部の者しか発見できなかったため、司教裁判所の裁判記録などのデータ(Archivio Diocesano di Lucca, Curia civile, 16, 19, 85, 86)を基にさらなる検討を行った。 これらについて、関西中世史研究会において「市民から高利貸しへ:イタリア中世都市の経済、倫理、司法利用」(2011年11月20日、Zoom)というタイトルで報告を行った。
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