研究課題/領域番号 |
21K00929
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研究機関 | 南山大学 |
研究代表者 |
川浦 佐知子 南山大学, 人文学部, 教授 (30329742)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | アメリカ先住民 / 保留水利権 / 水利権合意 / 水利権係争 / 水資源管理 / ウィンターズ法 / マッカラン修正 / 部族主権 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、20世紀後半の合衆国西部における水利権係争を、アメリカ先住民部族の視点から検討することにある。具体的には、限りある水資源の分配をめぐって、先住民部族は州政府や連邦政府とどのような折衝を重ね、紛争解決に至ったのかを検討する。本研究では、モンタナ州における先住民の保留水利権係争に焦点を当てる。 令和3年度は、西部水利権係争における転換点となった1952年マッカラン修正の検討を軸に、1970年代、モンタナ州に保留地を有するノーザン・シャイアン部族の水利権訴訟と水利権合意交渉を検討した。 1952年マッカラン修正は、水利権をめぐって争う州と連邦の紛争解決のために定められた制定法である。この法は、州政府による包括的な水利権管理を可能とするため、州域内における連邦による水利権の司法判断を退け、州裁判所を水利権判断の優先法廷と定めるものであった。今年度研究では、マッカラン修正が制定されるに至った経緯、及びマッカラン修正が先住民の保留水利権に及ぼした影響を検証した。 令和3年度の検討の重要性と意義は、「部族―州―連邦」の間での水利権係争において損なわれた部族主権を、先住民側が水利権訴訟、及び水利権交渉を通して回復していった過程を明らかにした点にある。 検討を通して、1970年代初頭、モンタナ州はマッカラン修正の適応を受けるべく包括的水管理のための州法の制定を急いだこと、先住民はこの動きに反発するかたちで水利権請求訴訟を立ち上げたことが判明した。幾つかの司法判断を経て、モンタナ州は部族の水利権に配慮した州水利用法の改正に至っており、こうした素地があって部族と州との水利権交渉が可能となったことが明らかとなった。併せて、水利権交渉が孕む部族にとってのリスクも明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和3年度は、ワシントンDCに所在する国立公文書館、及びアメリカ先住民権利基金において資料調査を行う予定であったが、コロナ感染症拡大のため渡米できなかった。これによって、年度中に検討する予定であった、対先住民政策における部族保留水利権の扱いや、先住民の権利運動と水利権請求訴訟との関連について、十分に議論が尽くせたとは言えない状況にある。 一方で、令和4年度に予定していた先住民部族による一連の水利権訴訟の検討や、モンタナ州水利用法改正の検討を、一部、計画に先んじて把握、検討することができたため、「やや遅れている」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画では、令和4年度はモンタナ州ノーザン・シャイアン保留地での現地調査を実施する予定となっているが、コロナ感染症の多大な影響を受けている保留地の訪問は、現時点では難しいと考えられる。(2022年3月15日に、保留地での緊急事態宣言が6月半ばまで延長された。)状況を見ながら、ワシントンDCでの資料調査、もしくはモンタナ州での現地調査の実施の可否を判断する。 令和4年度は、ノーザン・シャイアン以外のモンタナ州の先住民部族の水利権交渉の検討を行う。併せて、未だ解決を見ていないワイオミング州ウインドリバー保留地における水利権係争や、20世紀初頭の大規模水開発によって部族水利権が損なわれた南西部部族の水利権交渉について検討する。これらの検討を通して、西部水資源係争の有り様を包括的に把握する。20世紀後半における連邦の水資源開発・管理についても、併せて検討を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和3年度は、実施予定であった海外調査がコロナ感染拡大によって実施不可となった。このことにより、未使用額が生じたため、令和4年度は当初予定よりも直接経費の請求を減じる判断をした。 令和4年度は、現地の感染状況を見ながら、ワシントンDCでの資料調査、もしくはモンタナ州での現地調査を実施する。
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