研究課題/領域番号 |
21K00931
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
朝治 啓三 関西大学, 東西学術研究所, 客員研究員 (70151024)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | グロステスト / シモン・ド・モンフォール / 教皇イノセント4世 / 司教巡察 / ヘンリ3世 / 司牧 / フランシスカン / アダム・マーシュ |
研究実績の概要 |
初年度にあたる今年度には、外国出張を予定していたが、コロナ禍のためそれを実行できなかった。国内出張も蔓延防止措置政策などの影響を受けて大学図書館の多くが外部者に対して利用を制限したため、出張しての利用が予定通りにはできなかった。購入した書籍や、大学図書館の間での相互利用制度を利用して、書籍や論文コピーを取り寄せる方法で可能となった書籍論文を使用して研究を進めた。その結果5本の論文を公表し、一つの口頭発表を行った。 リンカン司教ロバート・グロステストが、第4回ラテラン公会議決定に基づいて、イングランド教会の司牧の実践を改革する取り組みを開始し、教区の司祭、司教管区内の修道院、大聖堂参事会が保有する教区の教会などへの司教巡察を敢行した。その際、彼はフランシスカンのアダム・マーシュの協力を得た。アダムが残した書簡集が残されており、これを分析することで論文を作成した。 さらにアダム・マーシュが、ガスコーニュ総督として南仏に赴任中のシモン・ド・モンフォールにあてて送った書簡11通を分析して、フランシスカンの神学に基づく世俗国制の位置づけを再構成し、同時のそれがシモン自身の持つ国制構想と如何に異なるのか、そしてそれが国王ヘンリ3世の国制構想と如何に異なるのかを明らかにすることが可能になった。その成果は研究史に当たる部分、論点比較に当たる部分、著者独自の国制構想を読み取る部分に分けて、それぞれ論文を作成し公表した。また第3部分についての英語論文を英語研究誌Spicilegiumに公表した。 研究予算のうちすぐに必要なコンピュータを購入した。リンカン大聖堂へ渡航しての史料転写作業時に必要となるデジタルカメラ、スキャナ、得られたデータを印刷するプリンタの購入は、渡航できない段階では控えることとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
外国出張旅費を使用して渡英して史料を転写するという作業、及び研究成果を国際学会口頭発表するという課題は、コロナ禍のために実現できていないが、これら以外の研究活動はおおむね順調に進んでいる。その結果, 5本の論文を公表し得た。口頭発表も行い得た。 グロステストの司牧観を示す教会巡察については、司教による大聖堂参事会との、教区教会をめぐる巡察をめぐる論争を、GoeringとMantelloが編纂した史料を分析して解明し、論文を作成した。従来の論者が言及していなかった、教皇庁によるカトリック神学に基づく西欧カトリック世界の構築構想を、司教の行動や弁論から読み取った点が、著者の独自な点である。 またグロステストの弟子にあたるアダム・マーシュからシモン・ド・モンフォール宛書簡を分析することで、フランシスカンの世界観における世俗国制の在り方構想を読み取り、それをアダムが、どのようのシモンに伝え、シモンがそれをどのように自らのガスコーニュ統治に反映させていたのかを検証した。通説ではシモンはアダムやグロステストの言いなりになって、カトリック神学をこの世の統治にそのまま当てはめようとした厳格者とみなされてきたが、拙著の分析ではその事実は無いことを明らかにし、シモンはアダムの意見を参考にしたが、現実の政治活動は世俗国制の実情に合わせた行動をとっていたことを結論した。 さらに、そのシモンが1265年に開催したいわゆるシモンの議会が、通説が述べるような庶民院の起源ではないことを史料に基づいて実証した。神学上の空論を現実政治に直結したために、シモンが失敗したという俗説を否定し得たと考える。これらの実証を踏まえて、今後は司教の考える神学に基づく国制構想、司牧を実現するための司教管区に存在したはずの統治機構を探り出す予定である。
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今後の研究の推進方策 |
まず成果を国際学会で口頭発表して、世界の他地域の学者から評価を受ける予定である。また今年度はウェッブ上で英語論文を公表できたので、それに対する海外の研究者による評価を受け、それを踏まえて必要な修正をしたうえで研究の精密化を図ることになろう。 グロステストの司牧活動にとって、13世紀前半のカトリック神学の進展状況についての概括的知識が必要であり、国内の哲学者や神学者の研究成果を渉猟することから初めて、海外の研究書・論文を網羅的に読む作業を続けている。グロステストは1220年代からオクスフォードのフランシスカンの学校で神学講師を務め、彼の後継者となったアダム・マーシュと協力して、リンカン司教区内の教区教会の司祭へと推挙された人物が聖職者としての能力を有するか否かを、フランシスカンの神学者(ボナヴェントゥラなど)の学説を採用していた。そこでトマス・アクイナスなどドミニカンとの神学上の違い、影響力の違いなどを考慮に入れると、グロステストがリンカン司教区に確立しようとしていた司牧のための制度の構想を再構成し得ると考えている。 司教管区内で大聖堂参事会、地方司祭、教区司祭、助祭、礼拝堂チャプレンなどの聖職者や、フランシスカンやドミニカンらの修道士が、信徒の司牧のために取っていた活動や、そのために設置されていた機構を史料に基づいて解明する予定である。そのために原史料を現地で転写する必要がある。リンカンシァの古文書館に赴くべく手続きを現在取り始めている。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のため外国出張旅費を使用しての英国の大学・文書館への出張が不可能となったことが、予算を消化できなかった最大の理由である。また国内の大学の図書館も、緊急事態宣言や蔓延防止措置などによって、学外者の利用を制限したため、関西から東京などへ出張する旅費を予定通りには使用できなかったことも理由の一つである。入力のために使用するコンピュータを購入して使用したが、渡英して史料に接することができないので、羊皮紙を撮影するためのデジタルカメラや、それをプリントするプリンター、さらに、現地で史料を傷つけないように開いたまま撮影できるスキャナーなどの購入も、控えられた。初年度に購入すべき物品は次年度での購入になろう。 2022年度に外国への渡航が可能となった時点で、英国、リンカンシァの大学の図書館や文書館に赴いて、原史料の転写、解読、入力する作業を行う予定である。また英国の大学からグロステスト研究の専門家を日本へ招聘して、これまでの研究について討論し、最新の成果についての情報を得る予定である。
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