研究課題/領域番号 |
21K00932
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研究機関 | 奈良大学 |
研究代表者 |
高橋 博子 奈良大学, 文学部, 教授 (00364117)
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研究分担者 |
桐谷 多恵子 多摩大学, グローバルスタディーズ学部, 専任講師 (30625372)
竹峰 誠一郎 明星大学, 人文学部, 教授 (40523725)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | グローバルヒバクシャ / 黒い雨 / 広島・長崎 / ジャーナリスト / 核の世界 |
研究実績の概要 |
2023年度には日本平和学会春季大会が研究代表者の高橋の勤務する奈良大学にて開催された。開催校企画・科研企画として、部会6「核のフォールアウトと日米関係」報告:小山美砂 (ジャーナリスト)「広島・長崎原爆のフォールアウト」報告:濱田郁夫(太平洋核被災支援センター共同代表)「太平洋核実験による高知のマグロ船の被爆とその影響について」報告:宮本ゆき(デュポール大学)「米核開発のフォールアウト」討論:森川正則(奈良大学)討論:下本節子(ビキニ被ばく訴訟原告団長)司会:田井中雅人(明治学院大学)を開催した。放射性降下物とは、核兵器が炸裂後に発生する、放射性物質が広がって降下する地球環境汚染のことである。マンハッタン計画では放射性物質の軍事利用が検討され、戦後も米軍特殊兵器計画などで検討され続けている。放射性降下物についても軍事兵器への応用という観点から、放射性降下物の人体影響研究は重視されてきた。その一方で、広島・長崎への原爆攻撃による残留放射能・放射性降下物・内部被曝を認めることは国際法違反であることを認めるに等しいため、米国政府・軍は公式には否定し続けてきた。核のフォールアウトによって多くの人が被ばくしたにも関わらず隠されてきた。本部会では、核のフォールアウトによってどのような被害がもたらされたのか、広島・長崎、ビキニ水爆実験、米国内での核実験についての報告と、日米関係の視点からの分析を踏まえた議論をした。 また日本平和学会秋季集会ではグローバルヒバクシャ分科会を科研共催企画として開催した。藤岡惇会員(立命館大学)が「『勝利型核抑止』と宇宙核戦争」と題して報告を行った。討論は木戸衛一(大阪大学)、司会は田井中雅人(明治学院大学)が行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度は日本平和学会でのシンポジウムや分科会を開催し、科研のテーマの共同研究の成果を研究協力者と共に発表することができた。研究代表者の高橋博子は「「ひろしま平和ノート」改訂問題」『反核法律家』((115) 40-45 2023年) 「ひと」から問うジェンダーの世界史(全3巻)第3巻「世界」をどう問うか?ーー地域・紛争・科学(井野瀬久美恵・粟屋利江・長志珠絵編)に「2)核とジェンダー ② 核の表象・核の現実 」を寄稿し、また 日本平和学会編『3.11からの平和学「脱原子力型社会」へ向けて』(明石書店、2023年)に「第7章 戦後の核開発国際協調体制とフクシマの連続性――UNSCEAR(原子放射線の影響に関する国連科学委員会)を中心に」を寄稿した。 また分担研究者である竹峰誠一郎は、共著、Resisting the Nuclear: Art and Activism Across the Pacific, (University of Washington Press, January 2024)で”Resisting US Nuclear Tests: The UN Petition from the Marshall Islands”を担当し、また、『岩波講座 世界歴史 第22 巻――冷戦と脱植民地化Ⅰ 20 世紀後半』(岩波書店、2023年7月)で「オセアニアから見つめる「冷戦」――「核の海」太平洋に抗う人たち」を担当した。さらに『なぜ公害は続くのか : 潜在・散在・長期化する被害』(シリーズ環境社会学講座1、新泉社、2023年4月)「重層化する核被害のなかで マーシャル諸島発「核の正義」を求めて」などを担当した。 このように学会や出版物において多くの研究発表を行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は日本平和学会春季研究大会(2024年6月1日(土)2日(日)於:学習院大学)にて部会テーマ:権力とメディアを開催予定である。日本国憲法では「①第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。② 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない」と表現の自由が謳われている。放送法第三条では「放送番組編集の自由」が謳われている。 また日本新聞協会が採択した新聞綱領には「国民の「知る権利」は民主主義社会をささえる普遍の原理である。この権利は、言論・表現の自由のもと、高い倫理意識を備え、あらゆる権力から独立したメディアが存在して初めて保障される。新聞はそれにもっともふさわしい担い手であり続けたい」と謳われている。これは占領下で原爆報道を禁じたプレスコード(新聞綱領)とは対局的な綱領である。いずれも第二次世界大戦戦前の権力による言論・表現への介入への深い反省のもとに策定されている。本シンポジウムでは国策遂行・戦争遂行の重要な担い手となったNHKの放送を検証した『ラジオと戦争』(NHK出版、2023年)の著者大森淳郎元NHK放送文化研究所研究員と原発推進の政・官・業・学、そしてメディアの関係を追及・検証した『なぜ日本は原発をやめられないのか?』(文芸春秋、2023年)の著者青木美希会員(予定)の報告、さらに、合衆国憲法修正第1条で言論・出版の自由を保障しながら、占領期の言論統制を行なった米国の占領政策の矛盾についの高橋の報告を基調に、メディアと権力の問題、その中での平和研究の役割について議論したい。討論は七沢潔(ジャーナリスト、中央大学)と金平茂紀(ジャーナリスト)、司会は平井朗(ノーモア・ヒバクシャ記憶遺産を継承する会事務局)が行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
海外への調査は円安と航空運賃の高騰により、繁忙期での調査が困難だったため。
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