研究課題/領域番号 |
21K00933
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研究機関 | 久留米大学 |
研究代表者 |
大場 はるか 久留米大学, 文学部, 准教授 (40758637)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 神聖ローマ帝国 / イエズス会 / 日本観 / 対トルコ戦争 / キリシタン / フランシスコ・ザビエル |
研究実績の概要 |
2022年度は勤務校から在外研究に赴く許可を得たため、予定をかなり変更し、ウィーンのオーストリア科学アカデミーを拠点に欧州各地で史料調査を集中的に実施した。その際、対トルコ戦争が中欧の日本人描写にどの程度影響したのかを最終的に明らかにする目的で、1551年に日本の山口で実施された「山口の宗論」の描写が現地にどの程度残されているかを確認する作業に特に力を入れた。その結果、オーストリア南部のクラーゲンフルト、ベルギーのヘントで新たな図像を確認することができた。オンライン上では同様の図像がドイツ語圏の銅版画をベースにメキシコやエクアドルでも制作されていたことが確認できた。調査の途上、以前から継続的に調査を進めている日本二十六聖人関連の図像も、新たにドイツ中部のハイリゲンシュタット、パーダーボルン、ドイツ南部のパッサウ、チェコのスヴァター・ホラなどで確認することができた。 調査の成果は、2022年6月にオーストリアのインスブルックで開催された国際学会、7月にドイツのザールラント大学で開催されたコロキウム、9月にドイツのゴータで開催された国際学会、12月にドイツのパッサウ大学で開催された公開講演会などで発表し、好評を得ている。調査の途中経過は日本の学術雑誌『宗教と社会』にも研究ノートの形で投稿し、査読にも通していただいている。 このほか、昨年度から進めているオーストリア科学アカデミーのアーカイヴに所蔵されているMargret Dietrichの遺稿(日本を描写した近世中欧のイエズス会劇に関する史料の複写・翻刻・翻訳)の整理をかなり進めることができた。この作業を通し、Dietrichがイエズス会の日本劇について55冊のパンフレットと10本の脚本を3巻本で出版予定であったことが判明したため、今後はこれらを整理・出版していく方向でアカデミーの関係者と合意することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
図像史料調査のところでは、在外研究に赴いたことにより、現地の研究者や学術機関の職員らとの情報交換を非常に上首尾に進めることができ、各地に確認作業に赴くことも簡単にできたため、想定していた以上の成果をあげることができた。特にチェコの図像については、チェコの研究者たちが車で各地に連れて行ってくれたこともあり、2年分ぐらいの調査が一気にできた感がある。 また、上述のMargret Dietrichの遺稿の整理をオーストリア科学アカデミーがこちらに完全に任せてくれた上、この遺稿と関係するThomas Immoosの遺稿をスイスのルツェルンの文書館員が積極的に整理してウィーンに管理を移管してくれたため、近世ドイツ語圏(特にカトリック圏)の日本関係史料の全容を、予定よりもずっと早く把握することができた。Dietrichの遺稿の整理が加わったことにより、後回しにした作業もあるが、遺稿整理にはそれ以上の意味があったと言える。もっとも、個人の遺稿は故人の人権保護の問題もあり、すぐに研究に活用したり公表したりすることができる類の史料ではないため、数千点の史料の中身の確認とナンバリング作業、人権保護の観点からの配慮方法の協議が完全に完了するまでは、研究への活用や成果の公表はしばらく控えなければならない。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は成果の公表を少しずつ進めていく。まずは5月の日本西洋史学会で、「山口の宗論」に関する史料調査の成果を発表していく。対トルコ戦争の日本人描写への影響については、新史料がいくつか確認できた一方で、チェコの美術史研究者らに「ハンガリーも調査したほうが良い」と言われたため、次に科研費に申請する際にはハンガリーの調査も視野に入れていきたい。このほか、2023年度中には2022年度中にドイツとオーストリアで実施した2つの学会発表を論文化し、海外で出版される学会論文集にドイツ語と英語で投稿する。 上述のMargret Dietrichの遺稿については、数年後オーストリア科学アカデミーの出版部から出版する方向で、アカデミーの関係者と協議を進めている。遺稿はドイツ語に加え新ラテン語のものが多く、今後は日欧の新ラテン語文学の専門家も交えて共同研究の形で出版準備を進めていく必要がある。 現在の研究をさらに発展させつつDietrichの遺稿の出版するため、2023年度の夏には「前年度申請」を実施し、新たな科研費(共同研究向け)に代表者として申請することを現在は視野に入れ、準備を進めている。この遺稿は歴史学研究者だけでは編纂しきれないため、文学の研究者と協働する必要がある。また、本研究で進めてきた図像史料の調査で予想を大幅に上回る点数の日本関係図像が出てきたため、今後は美術史研究者とも協力関係を深めた方が良さそうだ。これらの事情に加え、ユーロ高と欧州の物価高が急激に進み、本研究を最後まで実施するための資金が終了前に枯渇しそうな勢いで減っているため、前年度申請を積極的に考え、2024年度から新たな形で共同研究を進め、最終的には2027年~2028年ぐらいに中欧の日本観について、より分野横断的で包括的な成果が公表できるようにしていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス拡大のため、2021年度3月の海外出張の旅費を2022年度に清算することになった。また、物価高騰とユーロ高、在外研究による調査出張の回数増加など不測の事態を考えて2023年度分の予算を50万円前倒ししていたが、2022年11月末~12月初旬のパッサウへの出張の際に、パッサウ大学から国際学術研究員として2週間招へいを受け、科研費から宿泊費を支出する必要がなくなり、最終的に資金が約20万円残ることになった。残金は2023年度の研究費として、学会発表の際の出張や英文校正に使用していく。
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備考 |
Margret Dietrichの遺稿整理についてオーストリア科学アカデミーが制作したサイトと、2022年11月末~12月初旬にパッサウ大学から招へいしていただいた際に実施した公開講演(本研究のテーマ「山口の宗論」の描写に関する講演)を宣伝するパッサウ大学のサイト。
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