研究課題/領域番号 |
21K00939
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
波部 雄一郎 大阪大学, 文学研究科, 招へい研究員 (60631984)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ヘレニズム時代 / ポリス / ローマ帝国 / ギリシア / 小アジア / ギュムナシオン / ネオイ / エフェボイ |
研究実績の概要 |
今年度は、ヘレニズム・ローマ時代のギリシア都市における20代から30代の青年市民のアソシエーションNEOI(NEANISKOI,NEOTEROI)について、おもに碑文資料の分析と先行研究の整理を行った。 まず、ギリシア、小アジアにおけるアソシエーションとしての青年市民層の分布を把握するため、各地から出土したギリシア語碑文を分析した。その結果として、ギリシア都市で青年市民層が碑文中にあらわれるようになるのは紀元前280年頃、イリオンなど小アジアのエーゲ海岸の都市の民会決議が最初の事例であることに着目した。これらの都市の碑文資料の分析により、従来説よりも早くヘレニズム時代の初期には青年市民層が都市内で民会決議に関与するなど一定の影響力を有するようになっていたことを明らかにした。同時に、ヘレニズム時代初期の青年市民層の動向について、ディオドロス・シクロス『歴史集録』18巻における小アジア、ピシディア地方の都市テルメッソスの事例を検討した。ここでは後継者戦争における同市の動向をめぐり、青年市民層と都市支配層の対立が描かれるが、ディオドロスの記述と彼が依拠した記録を検討し、先に述べたヘレニズム時代前期に青年市民層が一部都市において一定の影響力を有していたという見解を補足するものであると結論づけられた。 上記の作業と並行し、都市とヘレニズム諸王国との外交において青年市民層が果たした役割について、プトレマイオス朝を事例として考察した。同王朝の行政機構、軍隊への青年市民層の関与に着目し、ギリシア語碑文、パピルス史料だけでなくポリュビオスなどの歴史記述を分析し、ギリシア諸都市の有力家系の青年市民がプトレマイオス朝の宮廷に招聘され、政治的影響力を発揮した経緯について検討している。このテーマに関連しては途中成果を図書の刊行と学会報告により公表している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
資料の分析を行い、当初予定していた青年市民層の分布についてはほぼ予定通りに概要を把握することができた。同時にヘレニズム諸王朝と都市との関係において青年市民の果たした役割を考察する中で、いくつかの事例には限定されるものの、青年市民層の都市における位置づけ、ギュムナシオンでの軍事訓練についてもおおよその傾向を把握することができたと評価できる。 なお、コロナ・ウィルス完成拡大のため、予定していた国内研究機関での資料調査、および国外での現地調査(ギリシア国内)、資料調査(フランス、ジェルネ・グロートセンター附属図書館)を実施することはできなかった。しかし、大阪大学はじめいくつかの国内大学図書館での資料調査を行うことができ、また購入した図書・資料を中心に分析を進めることができた。また、本研究課題に関連する研究者であるクリスティアン・ジョルジュ・シュウェンツェル教授(フランス、ロレーヌ大学)、アンジェイ・シャンコフスキ教授(フランス、リール第3大学)とはEメールを通してコミュニケーションをとり、助言を受けた。 以上の理由から、当該研究課題は現時点では順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
現在、プトレマオス朝を事例に、都市の青年市民層がヘレニズム諸王国との外交交渉、および諸王国の行政、軍事において果たした役割について引き続き研究を続けているが、その成果を令和4年度前半に論文としてまとめ、公開する。 また、青年市民層のギュムナシオンの軍事訓練の内容や、ギュムナシオンとのかかわりについて考察をすすめる。主にマケドニアの都市ベロイアから出土した、紀元前2世紀中頃のギリシア語碑文「ギュムナシアルコスの法令」を考察する。同法はギュムナシオンの長官が定めたギュムナシオンの管理規則であるが、同布告中、NEOI(20歳から30歳の市民と想定)が重要な役割を果たしている。ベロイアの法から明らかにされるNEOIの特徴を把握し、他のギリシア都市のギュムナシオンにおける青年市民の役割や関与の状況と比較、検討することにより、各都市のギュムナシオンの独自性、あるいは共通性を明らかにすることを目的とする。 研究遂行について、昨年度コロナ・ウィルスの影響で実施できなかった海外での調査について、令和4年度はトルコ国内でエーゲ海のギリシア都市遺跡の調査を行う予定であったが、令和3年度に遂行する予定であったギリシア国内移籍の調査についても一部実施する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度に国内での資料調査と、海外での現地調査・資料調査(ギリシア、フランス)を予定していたが、コロナ・ウィルスの感染状況が収束せず、調査を予定していた研究機関の訪問が許可されなかったり、海外渡航が困難であったため、計上していた旅費を使用しなかった。国内・国外での調査については計画を再考し次年度に実施する予定である。 また、物品費についても大半は外国語資料・図書の購入に充当したが、一部コロナ・ウィルスやウクライナ情勢の影響で当該年度中に納品ができず、次年度に繰り越したために残額が発生した。
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