研究課題/領域番号 |
21K00941
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
永本 哲也 弘前大学, 人文社会科学部, 助教 (60623858)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 宗教改革 / 再洗礼派 / ドイツ / 低地地方 / 宣教 / メディア / コミュニケーション / ネットワーク |
研究実績の概要 |
本研究は、1530年代のドイツ北西部下ライン地方、ヴェストファーレン地方、低地地方に広がっていた宗教改革運動を例に、宣教の方法と効果を実証的に明らかにすることを目的としている。その際、超地域的に広がっていた人間関係のネットワークが宣教で利用されていたことに特に注目する。 1. 初年度は、2020年2~3月にかけてドイツで行った史料調査の成果を基に、2021年10月3日に東北史学会西洋史部会で、アーヘン市での福音派の人間関係のネットワークと宣教についての報告を行った。この報告では、1533~35年のアーヘン福音派の宣教が、主に市外からやって来た説教師を中心として、支持者の私邸で開かれた秘密集会で行われたこと、その際、職業、夫婦、親族のつながりが重要な役割を果たしていたことを明らかにした。また、下ライン地方、さらには低地地方やヴェストファーレン地方など市外の福音派と結びついていたことも確認された。これらの特徴は、応募者が周辺地域の他都市で行った分析の結果と一致するものであり、初期宗教改革運動における宣教の方法や効果を明らかにするための重要な成果だと言える。 2. 本研究の成果を地域社会に還元するために、積極的にアウトリーチ活動を行った。2021年1月12日には、地域の市民向け講座「地域未来創生塾@中央公民館」において、宗教改革期のメディアやコミュニケーション全般について、本研究を含む新しい研究の成果を盛り込んだ話を行った。2021年3月には、弘前市のコミュニティFM 局アップルウェーブの番組「りんご王国こうぎょくカレッジ」で、宗教改革期の宣教を含む自身の研究について紹介した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、2020年度に研究期間が終了した科学研究費助成事業18K12538(若手研究)「宗教改革思想の伝播に関する研究-オーラルなコミュニケーションを中心にして」の課題や成果を引き継ぐものである。先行する研究課題では、主にドイツ北西部下ライン地方各地での宗教改革支持者の宣教を扱ったが、新型コロナウイルスの感染拡大によって作業が大幅に遅れたため、当初予定した分析を完了することができなかった。本研究では、初年度から低地地方における宗教改革の宣教に関する分析を行う予定であったが、下ライン地方を対象とした分析が終わっていないため、低地地方諸都市の分析と平行せざるをえない状況にある。また、史料読解や分析は着実に進み、その成果は口頭報告では継続的に公表してきたが、研究成果を学術論文として刊行できていない。そのため、分析に関しても、研究成果の公表に関しても、進捗状況はやや遅れていると判断せざるを得ない。
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今後の研究の推進方策 |
下ライン地方については、、2020年の文書館における調査で入手したヴェーゼル市やエッセン市に関する史料の分析が終わっていないため、史料読解と各市の宗教改革支持者の宣教方法とネットワークに関する分析を進める。低地地方に関しては、先ずマーストリヒト市での宣教を調査する。マーストリヒト市の福音派は、これまで分析を進めてきたユーリヒ公領やアーヘン市の改革者やその支持者との関係が深く、既存の分析結果と合わせることでより広域な福音派のネットワークや宣教活動が明らかになるためである。また、マーストリヒト市は、市参事会議事録や宗教理由で逮捕された者の審問記録など関連史料が豊富で精度の高い分析をするのに適しているためでもある。 また、下ライン地方や低地地方全体の分析を終えるにはまだ時間が必要であるため、今後は個別都市における福音派の宣教やネットワークに関する分析成果を刊行したい。本年度は、昨年報告したアーヘン宗教改革に関する分析結果を論文にして投稿することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
残り研究費が少額過ぎて、使い道がなかったため、次年度使用額が生じた。 次年度は、引き続き本研究に必要な文献・史料を購入する。また、執筆や作業を効率的に進めるために、27インチの大型ディスプレイを購入する。新型コロナウイルスの感染状況によっては、当初の予定通りオランダに調査旅行を行う。ただし、ヨーロッパの感染状況や渡航の条件が改善されない場合には、調査を延期する可能性もある。
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