研究課題/領域番号 |
21K00941
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
永本 哲也 弘前大学, 人文社会科学部, 助教 (60623858)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 宗教改革 / 再洗礼派 / ドイツ / 低地地方 / 宣教 / メディア / コミュニケーション / ネットワーク |
研究実績の概要 |
本研究は、1530年代のドイツ北西部下ライン地方、ヴェストファーレン地方、低地地方に広がっていた宗教改革運動を例に、宣教の方法と効果を実証的に明らかにすることを目的としている。その際特に重視しているのは、史料に乏しく実態の把握が難しい日常生活における口頭でのコミュニケーションを使った宣教である。本研究では、当局に逮捕された再洗礼派の審問記録を用いて、草の根の宣教が具体的にどのように行われたかを明らかにしようとしている。 本年度は、研究ノート「1530年代前半下ライン地方宗教改革運動における宣教活動-福音派聖職者ギスベルト・ファン・ラートハイムを中心に」を刊行した。本稿では、下ライン地方のユーリヒ公領西部を中心に活動していた福音派聖職者ギスベルト・ファン・ラートハイムの審問記録を主な史料として使いながら、彼を中心とした草の根宣教について検証を行った。その結果、以下のことが明らかになった。宗派形成が進んでいない初期宗教改革期において、福音派の間にも様々な考え方の違いがあった。宣教は主に口頭での説教や個人的な働きかけで行われていたが、個々の福音派は、説かれたことをそのまま鵜呑みにはせず、自ら考え、取捨選択して自分の信仰を形作っていた。そして、福音派同士は、時に信仰の一部が違うことを認識していても、自らの取れるリスクや熱意の範囲内で、相互に支援し合っていた。こうしたゆるやかな支援のネットワークが、福音主義を地域の中で広げ、福音派の活動を可能にするために重要な役割を果たしていた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、初期宗教改革期における下ライン地方、ヴェストファーレン地方、低地地方にまたがる領域の宣教を分析することを目的としている。そのためには先ず、個々の都市や地域の宣教の実態を明らかにすることが必要であり、その後ではじめて個別の場所を越えた、地域、超地域的な人的ネットワークや宣教の分析を行うことが可能になる。しかし、本年度は申請時に想定していたほどのエフォートが確保できなかったこともあり、個別の都市や地域の宣教分析が、思うように進まなかった。特に、低地地方各地の調査・分析に未だ着手できていないことは、重大な遅れだと認識している。また、ユーリヒ公領西部を対象とした実証研究の成果は刊行できたが、以前報告した分析結果の論文化は完了しなかった。そのため、調査・分析、研究成果の公開ともに、進捗状況はやや遅れていると言わざるをえない。
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今後の研究の推進方策 |
現在予定よりも進捗状況が遅れているため、分析、研究成果の公開の両面で、遅れを取り戻すことが今後の課題となる。そのために、来年度は、地域を限定して作業を行う予定である。現在ユーリヒ公領西部、アーヘン市については分析が概ね終了し、この地域と関係の深いマーストリヒト市に関する調査を進めている。今後は、ユーリヒ公領西部とマーストリヒト市を含む低地地方南部を中心に、少しずつ調査・分析を行う場所を広げていく。これによって、個別の場所を越えた福音派の人間関係のネットワークと宣教についての分析を、着実に進めることが可能になるであろう。来年度は、個別の都市や地域の分析結果を論文化し学術雑誌に投稿する一方、地域を越えた分析を行うために低地地方南部を対象とした調査・分析を進めることを目標とする。そのために、来年度は、オランダ南部からベルギー北部各地で文献史料調査を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は申請時には、海外調査を行う予定であった。しかし、新型コロナウイルスの感染は完全に終息していなかったため、調査を取りやめた。そのため、海外渡航のために計上していた経費を使用する必要がなくなり、次年度使用額が発生する結果となった。 次年度は、オランダ、ベルギー、ドイツ各地で文献史料調査を行う予定である。そのため、海外での調査のために、日本・ヨーロッパ間の航空券の費用、宿泊費、ヨーロッパ内を移動するための交通費を支出することになる。また、本研究テーマを進めるために必要となる学術的な文献も、継続して購入していく。
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