研究課題/領域番号 |
21K00944
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研究機関 | 東京女子大学 |
研究代表者 |
坂下 史 東京女子大学, 現代教養学部, 教授 (90326132)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | イギリス / 18,19世紀 / 農業 / 科学 / フィランソロピー |
研究実績の概要 |
本研究は、アメリカ独立からフランス革命を経て第一次選挙法改革へと至る「改革時代」のイギリスにおいて、政治社会を安定させて人々の幸福を増大するという目標の下、農業、科学、フィランソロピーが結びつくユニークな「トライアド=三つ組」が現れたことの意味を考える。専門分科が進んだ現在から見ると、結びつきを想定し難い三者が、どのような状況下で関連度を高めたのかを明らかにし、それが当時のヨーロッパで知識伝達や社会改良、さらには国家運営をめぐる議論の場で一定の存在感を保持したことを示す。 具体的には次の手順で研究に取り組んでいる。①先行研究の検討を通じて「農業、科学、フィランソロピーのトライアド」に関する歴史的研究を進めるための新たな分析視角を構築する。②内外の研究者と意見交換の場を持つ。③三つの事例研究を通して上記トライアドの実態解明(史料研究)に取り組む。 これまでのところ、このうちの①と③を中心に研究を進めてきた。②に関しては、パンデミックの影響で、研究開始以来メール等による限定的な情報交換に留まってきた。22年度は3月後半にようやく約10日間のイギリス出張を実施することが出来た。この際に、Joanna Innes氏と直接面談する機会を持った。氏が進めているRe-imaging democracy projectの内情と今後の予定など、本研究に深く関係する有益な情報を得ることが出来た。 ①と③は昨年度から進めている研究活動を継続した。①:関連二次文献の調査収集。これを通じて研究の全般的背景を確認し、先行研究との関係をさらに明確にした。③:史料データベースを利用し、電子化された当時のパンフレット等を調査(主に農業委員会関連)。なお、当初計画にあった英国の図書館等での調査は3月末の出張期間だけでは十分に進めるに至らなかった。次年度に継続する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初計画では、主な検討対象として設定した三つの事例、すなわち、事例A(「農業委員会(Board of Agriculture)とJohn Sinclair」)、事例B(「ロイヤル・インスティテューションとCount Rumford」)、事例C(「ホウカム(Holkham)農場とEdward Rigby」)のうち、特に事例Bについて、2022年度に集中的に調査を進めることになっていた。そして、科学振興活動と農業振興活動がどのような部分で接点を持っていたのかを、当時の時代状況のなかで明らかにする計画であった。科学とフィランソロピーと農業の協働による人類の幸福増大を唱えた科学者Benjamin Thompson(Count Rumford)に注目し、その思想と実践を解明することで、とりわけ科学者が社会問題や農業問題をどう捉えていたのかを捉える予定であった。しかしながら、22年度は渡英調査が年度末にずれ込み、また期間も最初の計画よりやや短期間であった。このため当初期待したほどには充実した結果を得られていない。対応としては、予定していたことの一部を次年度以降に持ち越し、具体的な研究対象の範囲をThomsonの生涯の一部に絞るといったことを考えている。全体像を見通すという点では若干の後退となるとが、期限内に研究成果をまとめるために、許容できる範囲のことであろう。 また、事例Aについてもパンデミックの影響によるプロジェクトのスタート時点での遅れが未だに残っている。ただし、こちらについては一昨年度に比べると状況は改善している。 上記のような理由で全体計画に遅れが生じている。
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今後の研究の推進方策 |
上述のように、本研究は三つの事例を検討している。このうちの事例Aにあたる「農業委員会(Board of Agriculture)とJohn Sinclair」については、当初は2021年度から2022年度に、集中的に調査検討を進める計画だった。しかし、海外調査や研究者との意見交換に計画通りに進められない部分が生じ、予定の一部を23年度にも持ち越した。事例B(「ロイヤル・インスティテューションとCount Rumford」)についても、上述の通り、科学知識の普及やロイヤル・インスティテューションの提唱者で、科学と貧民救済と農業の結合を主張した物理学者Count Rumfordの思想と行動の解明が、未だ途上にある。事例C(「ホウカム(Holkham)農場とEdward Rigby」)については、農業委員会の一員トマス・クックのホウカム農場での試みを世に広めた医師Rigbyの思想と活動を再検討する(2023年度~2024年度)。 ここまで全体計画に生じている遅れについては、プロジェクト後半に可能な限り取り戻すことを試みる。ただし、その過程で当初計画の部分的縮小の必要性が見えてきた場合は、検討する事例を絞るといった対応も考えられる。たとえば、事例Cについては、23年度における研究の進展状況によっては、本プロジェクトにおける調査を予備的なものに留めて、本格的な検討は次のプロジェクトにまわすという決断もあり得るだろう。
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次年度使用額が生じた理由 |
パンデミックの影響でプロジェクトの前半に海外での史料調査と研究交流が十分に出来なかったため。海外渡航に制限がほぼなくなっているので、次年度以降にこれを行って遅れを取り戻し、研究全体を当初計画に近づけていく。具体的には、2023年度に実施する海外調査(複数回を計画)において使用する予定である。
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