研究課題/領域番号 |
21K00947
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
小森 宏美 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (50353454)
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研究分担者 |
仙石 学 北海道大学, スラブ・ユーラシア研究センター, 教授 (30289508)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 記憶の政治 / アイデンティティ / 政党政治 / 犠牲 |
研究実績の概要 |
2021年度は、新型コロナウイルス感染症の影響により、現地調査が実施できなかったものの、計画はその事情をあらかじめ考慮して立てていたものであるため、おおむね計画通りに研究を実施することができた。 具体的には、Web上で資料収集を行いつつ分析調査を進め、学会発表(国際政治学会、ロシア・東欧学会)を行い、また、分担者が2021年4月に刊行した本研究に関連するモノグラフ(『中東欧の政治』)を基に、議論を重ねた。加えて社会統合政策に関する研究ノート(英語)を学会誌にて発表した。 2021年度に主として明らかにしたのは、エストニアにおける独立回復後30年間の間でも、この数年間に生じた記憶をめぐる政治の変化と現実社会の関係である。ペレストロイカ期の1980年代末から2010年代半ばまで優勢であった「犠牲としてのアイデンティティ」に対する競合的ないし補完的なナラティブが登場し、その変化がとくに博物館などの公的空間の歴史表象に見て取れた。また政党政治の領域においても、長らく安定した構図であった二大政党間の対立軸に変化が生じ、両政党が協力に転じた。むろん、後者は記憶をめぐる政治の変容のみが影響したものではない。というよりは、記憶をめぐる政治の変化を生じさせた背景にあったのは、世代の交代に加え、2004年までのEU加盟過程、さらには加盟後の統合の進展を受けての社会の変容であった。とはいえ、こうした変化は単純で不可逆的なものでもなく、実際、2022年2月24日に始まったロシア軍によるウクライナ侵攻を受け、状況は極めて流動的になっている。とりわけ、ウクライナ避難民の流入が、小国エストニアにとっては今後多方面で軋轢を引き起こす可能性があることに留意しないわけにはいかない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度も新型コロナウイルス感染症の影響が継続しているため、従来の方法による調査研究は制約を受けているものの、オンライン・コミュニケーションツールの改善・利用拡大等々により、研究者間での議論はかなりの程度可能になっている。むろん、それらが対面での議論に全面的に取って代わることは難しく、研究進展のためには、それだけでは不十分であることは言うまでもない。とはいえ、エストニアをはじめとするヨーロッパ各国についての情報はある程度まではWeb上で収集可能である。いずれにしても、可能な手段を用いてまたその中で可能な方法論を見つけて、研究を継続する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
2022年2月24日のロシアによるウクライナ侵攻を受け、この30年間の歴史、あるいは冷戦期も含めての歴史の見直しが要請されていることは間違いない。こうした現実の政治情勢の影響は、本研究計画時点では予測できなかったものであり、当然考慮されていなかったが、研究の目的自体は、これを受けて研究上の意義のみならず、現実的な意味も持ちうるものとなった。こうしたことを意識しつつ、2022年度は、可能であれば現地調査を実施し、文献資料に限定されない情報を収集したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の影響により、国外出張のみならず、国内出張も制限を受け、計画していた現地調査・資料収集が実施できなかったため。2022年度に可能な限り現地調査・資料収集を実施する。また現在、国際学会報告を応募中である。
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