研究課題/領域番号 |
21K00947
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
小森 宏美 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (50353454)
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研究分担者 |
仙石 学 北海道大学, スラブ・ユーラシア研究センター, 教授 (30289508)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | エストニア / 新自由主義 / 体制転換 / 教育制度改革 / 言語教育 / マイノリティ / ロシア語話者 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、1989年の東欧革命を民主化ではなく「新自由主義革命」と捉え直す近年の議論の豊富化に資することにある。そのため、本研究では、エストニアの体制転換期を冷戦期の1985年から現在にいたるポスト冷戦期にかけての「長い」体制転換期として設定し、多様な当事者にとっての「自由」や「民主主義」の内実とその変化に着目する。 新型コロナウィルス感染症の影響を受けた社会・経済状況からの回復途上にあること、同時に、2022年2月に始まったロシア軍によるウクライナ侵攻は、とりわけこの1年間、エストニアの政治、社会、経済にも甚大な影響を与えた。本年度の研究はそうした状況を考慮したものとなった。 本年度の具体的な成果としては、転換期にあるエストニアの教育制度(とりわけ、言語教育と歴史教育)について、エストニア側教員との研究会などを開催し、また研究分担者との意見交換などを踏まえて、制度変更をめぐる議論の整理を行なった。言語面でも歴史認識でも問題となるのは、国内最大マイノリティであるロシア語話者である。これらの人びとの社会統合は一定程度の成果を収めたと評価されてきたが、そうした評価の見直しが制度変更の出発点になっており、本研究としては、1990年代から取り組まれてきたEU加盟に向けての諸改革の意味の問い直しが重要である。その意味で、すでに決定している初等教育や就学前位教育におけるエストニア語教育の強化の捉えられ方は、1990年代後半とは明らかに異なるものであり、むしろ、2001年以降に「西」ヨーロッパで見られた安全保障としての国民統合強化の流れとの相似が指摘できるだろう。2023年3月に実施れた国政選挙の過程と結果にもそれは見て取れる。 「自由」や「民主主義」と安全保障との間で争われる優先順位が、国際政治の影響を受けるという視点は、冷戦末期にも適用可能である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度は、校務等多忙などの理由により、現地調査はできなかったが、来日していたエストニア人教員で、エストニアの教育システム改革において主導的役割を担っている教員とセミナーやe-mail、Zoomを利用した意見交換を行うことで、現地の教育改革について貴重な情報を得た上で、文献資料、web資料などを利用して、研究を進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
いわゆるコロナ禍を受けての支出増大や経済環境の悪化に加え、2022年2月に始まったロシア軍によるウクライナ侵攻により、エストニアの国内政治における変化は、甚大なものがある。そうした変化の理解と整理は、web上の豊富な情報やオンラインを利用した交流を通じて可能な限り行っているものの、2023年度は、現地調査を実施することで、現地についての情報をアップデートした上で、本研究の目的に沿った研究の遂行を目指す予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の影響による渡航制限は、2022年9月の段階でほぼ解消されていたものの、本年度の早い段階では見通しを立てることが困難であったため、現地調査のための準備期間が十分とれないことから、計画段階で予定されていた現地調査を行うことができなかったことが、次年度使用額が生じた主たる理由である。 次年度は、本研究の最終年度にあたるため、年度のなるべく早い段階で現地調査を行なった上で、国内外研究者との意見交換らびに成果共有の機会を設ける予定であり、そのための打ち合わせなどを行なっているところである。
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