研究課題/領域番号 |
21K00950
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研究機関 | 旭川工業高等専門学校 |
研究代表者 |
根本 聡 旭川工業高等専門学校, 人文理数総合科, 准教授 (80342442)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | スウェーデン / デンマーク / 免税特権 / カルマル連合 / ハンザ / バルト海 / エーアソン海峡通行税 / 王朝財政軍事国家 |
研究実績の概要 |
本年度は、近世スウェーデン・デンマーク国力比較研究を行なうにあたって、中世以来の土地制度と租税政策を中心に検討した。成果は以下の二点である。第一に、中世北欧世界の土地制度の特色である王権が取り立てる税とその税免除をめぐる問題を検討した。この王権(=国家)に対して騎士役を果たすことと引き換えに許可された免税特権が、両国の財政問題を形づくる要点となる。この免税特権層(貴族)が、国境を超える所領形成を通じてインターノルディックな関係を結び、カルマル連合という同君連合を形成した。が、スウェーデンは1520年代に近代国家として独立する。その際、独立だけでなく、宗教改革も断行し、教会領を没収した。この教会回収策は、王朝財政軍事国家形成過程の出発点と見なされるが、全国の農地配分率が王領地に有利となる。王権にとっては税収の確保を意味したこの課税方法について、現在分析を進めている。問題は、戦争による財政難のため、王領地の譲渡が行われ、徴税基盤が揺らぐ点で、絶えず新たな収入源を創出しなければならないことである。第二に、バルト海貿易支配抗争の因果関係を検討した。バルト海貿易は、中世北欧世界にとってはハンザ同盟発足以来の懸案であり、北欧世界はカルマル連合の結成によってハンザに対抗したが、最大の焦点は、スコーネ沖の鰊漁である。リューベック商人がもたらす塩とデンマーク産鰊の交易を支えるこの漁業について、ノルウェー・ベルゲンの鱈のハンザへの輸送と合わせて検討したが、この漁業問題は、デンマーク王が1429年に導入したエーアソン海峡通行税の問題に行き着くことが判明した。同通行税によってデンマーク王権は潤い、スウェーデンに対する圧倒的優位を誇るが、この通行税徴収型国家デンマーク王国が、北欧共通の税制に根ざしながらも、スウェーデン王国の租税型国家からの挑戦を許す。総じて、両国の土地制度の異同を比較検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
遅延の理由は、主に次の六点があげられる。第一に、コロナ禍で、出張が思うようにできず、現地調査及び資料調査ができないことである。第二に、文献・史料の入手困難性、である。特に、デンマーク関係の文献の入手が容易ではない。しかも、史料集は、王国参議会議事録をはじめ、王国宰相アクセル・オクセンシェーナの『文書・書簡集』の購入がきわめて難しい。第三に、比較研究に起因する問題であり、一国の一テーマの追求だけでも時間を要する作業である点があげられる。第三に、土地制度史や税制関係の歴史研究自体が、第二次世界大戦以前に、あるいは十九世紀になされた古い研究にまで遡らなければならないという点があげられる。第四に、そもそも国家財政の比較史研究それ自体がほとんどなく、それぞれの国に詳細な古い研究を深く掘り下げて検討しなければならないという問題がある。第五に、バルト海支配をめぐる抗争において重要な海軍建設の問題が、国家財政の問題へとうまく結合されていない、という国際的な研究状況であるため、各国の専門研究の到達点を把握するだけでも、相当に時間を要する仕事となるという難点がある。第六に、スウェーデンとデンマークの国力比較研究という性格上、本研究に関係する国や地域が、きわめて多岐にわたり、国家だけでも、スウェーデン・フィンランド、デンマーク・ノルウェーをはじめ、ロシア、ポーランド、神聖ローマ帝国、さらにはイングランド・スコットランドやフランスがかかわり、それぞれに外交、戦争、同盟、助成金問題が絡んでくる。本研究が、基本的には、スウェーデン史の観点を中心とした研究ではあっても、デンマーク語、ノルウェー語、英語、ドイツ語の文献には、相当に目配りしなければならず、さらに言うならば、当時の史料の解読にはラテン語も加わるため、きわめて難解な作業であるという点があげられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究は、基本的には、予定通りに進めることにしたい。すなわち、主要な二点の研究目標を解明するという方向である。一つは、環バルト海世界の主要な資源の出処を明らかにし、それらの生産および製造と流通の在り方を分析することであり、いま一つは、第一のスウェーデン・デンマークの資源研究をもとに、かかる資源を国力として、17世紀中葉にピークに達する両国のバルト海支配をめぐる覇権闘争において、いかに有効に戦争のための資源動員につなげていったかを、資金融通の問題とともに、解明すること、である。したがって、かかる研究課題を解明するために、以下の四点を研究課題として、考察を深めていくことにしたい。第一に、スウェーデン、デンマーク両国の税制および徴税の特質を見定める。第二に、一方で、デンマークにおけるバルト海・スコーネ沖の鰊漁とユラン半島の牛交易、他方で、スウェーデンの鉄・銅・銀の金属資源の生産・流通を考察する。第三に、国際商業の舞台としての両国の首都、コペンハーゲンとストックホルムの、環バルト海世界における競争に果たした役割と意義を比較検討する。第四に、以上の研究成果に立った上で、国制と財政軍事家の関係を考察する。ただし、第一年目に第一点を研究する予定ではあったが、16世紀スウェーデンの徴税システムの問題は、一方で、中世後期の徴税と、他方で、デンマークの税制と比較し、しかも16世紀以降の王から派遣される代官の役割、すなわち封主から国家官吏への転換問題における両国の異同を検討しなければならず、本研究四年間を通じて一貫して分析を続けなければならないことが判明した。なお、不断に現れてくる国際的な研究の成果も、消化し、加味していくことにしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、第一に、当該年度においては、コロナ禍のため旅費を使用することができなかったためである。第二に、当該年度内には、物品、すなわち図書の期限内納品の見込みがたたなかったためである。来年度は、この次年度使用額を、資料調査等のための旅費として使用するとともに、代金が高額になりがちな図書代等に、有効に利用しようと計画している。
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