研究課題/領域番号 |
21K00968
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
阿子島 香 東北大学, 文学研究科, 名誉教授 (10142902)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | プロセス考古学 / 考古学アーカイブス / ビンフォード / ミドルレンジセオリー |
研究実績の概要 |
本研究では、アメリカのプロセス考古学と伝統的な日本考古学との間にある、理論的かつ方法論的な大きな差異を軽減し、世界でも非常な高水準にある日本考古学の発掘調査および資料分析法を、歴史理論ないし人類学理論の中で、適切に位置づけ発展させることを目指し、基礎的分析を進めた。プロセス考古学の泰斗であったルイス・ビンフォードの諸著作について、唯一の日本人弟子として、正確な日本語による理解を進めることも、目的の一つである。両国の考古学の間に長年存在するパラダイムの「深層的差異」(単に言葉の壁や国際発信状況ではない)を研究史的に解明するために、東北大学考古学研究室の百年に及ぶ学史を、収蔵資料のアーカイブス化を通して可視化し、アメリカ考古学との研究現実的な比較研究を進める。初年度は、これらの目的に向かっての準備と基礎的な資料研究を開始した。コロナ禍の中で、アメリカ考古学会(Society for American Archaeology)は、オンライン開催となったが、本課題代表者は1982年以来、39年間継続して正会員であり、3ヶ月間の研究発表公開の聴講、機関誌American Antiquity の長期的な内容整理、留学時代以来の両国での記録類の再検討などを進めている。両国先史考古学理論の比較において鍵概念となり得るミドルレンジセオリーや技術組織論を媒介に方法論的、また実践的に理解する見通しがある。ビンフォードの主著の一つが邦訳されたので、書評を発表した。プロセス考古学の文化進化理論・技術組織論と石器使用痕分析について、学会発表した。東北大学に収蔵の歴代の学史的史料・資料の検討を開始した。以上の目的のため、情報関係機器の整備を行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究代表者は2021年3月に東北大学を退職して、同大学名誉教授資格で本研究課題を開始した。引き続き宮城県立東北歴史博物館館長の要職に就き、勤務しつつ課題に取り組んでいるが、本課題のエフォート確保に変化があった。また31年勤務した研究室の引っ越しと蓄積資料整理に時間を要している。複数回の地震の影響もあった。東北大学の研究史資料の収蔵施設2ヶ所について、現職教員の十分な理解を得られているが、資料アーカイブス化の進行および国際的な学史と理論研究に必要な、情報関係の機器整備・習熟に時間を要している。
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今後の研究の推進方策 |
プロセス考古学の理論と方法について、長年の直接経験を活用して、学史的な整理を進める。ビンフォードに直接学んだ唯一の日本人学生の履歴を活かし、相当量の蓄積記録類を整理し、アメリカ西部考古学における過去の実践的営為の考察を進める。一方、日本考古学の比較史料として、東北大学のおよそ百年間(1920年代から)の原史料から選択し、アーカイブ化を進める。東北大学文学研究科の現職教員の全面的な協力が得られている(本課題の研究協力者)。プロセス考古学の近過去の方法論的な現状把握は、一般に日本の考古学者に困難な分野であるが、研究代表者の経験を最大限活用して進め、また文献資料購入を行なう。エフォート確保については、週休日を利用する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者の退職および再就職によるエフォートへの影響、また代表者研究室引っ越しの影響による、本研究課題の全体的な遅れから、予定していた事業のうち、一次史料により研究史を整理・分析していく東北大学考古学アーカイブスの進行が次年度に持ち越す結果となった。また、コロナ禍の影響により、出張旅費が未使用で持ち越された結果があります。以上については、次年度以降に順次、使用予定であり、研究計画全体には、大きな変化はありません。
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