研究課題/領域番号 |
21K00978
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研究機関 | 奈良大学 |
研究代表者 |
豊島 直博 奈良大学, 文学部, 教授 (90304287)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 装飾付大刀 / 氏族制 / 圭頭大刀 / 円頭大刀 / 鉄製武器 / 古墳時代 |
研究実績の概要 |
研究2年目の今年度は、福岡県、兵庫県、静岡県、東京都、群馬県、栃木県などで円頭大刀の資料調査を行った。金銅装円頭大刀と鉄地銀象嵌円頭大刀の実測と写真撮影を行い、円頭大刀の分類と編年に関する新たな見通しを得た。 金銅装円頭大刀は大きく4型式に分けられ、4段階程度に編年できると考えられる。また、鉄地銀象嵌円頭大刀も同程度に分類、編年できると思われるが、こちらは未解決の課題である。いっぽう、本研究の主要な課題であった圭頭大刀については、すべての資料調査を終え、研究成果を査読論文に取りまとめた(豊島直博2023「圭頭大刀の生産と流通」『考古学雑誌』第105巻第2号)。この論文では、圭頭大刀の分類、編年、系譜、生産主体を論じ、圭頭大刀が6世紀第Ⅳ四半期に現れ、7世紀第Ⅱ四半期まで存続すること、朝鮮半島南部(百済)に系譜をもつこと、朝鮮半島南部―北部九州―山陰―畿内―東海―関東―東北地方南部がおもな流通経路であること、法隆寺に伝世する七星剣との共通点から、上宮王家が生産主体であることなどを論じた。 また、これまでの研究成果を総合した著作として、豊島直博2022『古代刀剣と国家形成』同成社を出版した。本書では、縄文時代における剣形武器の出現から、弥生時代における鉄製武器の出現と地域性、古墳時代前期における威信財としての鉄製武器の流通、古墳時代中期の鉄製武器と軍事組織、装飾付大刀の出現、装飾付大刀の生産と氏族との関連、鉄製武器と国家形成の関連などを詳しく論じた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究2年目の本年度までに、圭頭大刀の資料調査を終えることができた。また、もう1つの研究テーマである円頭大刀については、金銅装の資料調査をほぼ終了し、鉄地銀象嵌の資料について、調査を進めている途中である。圭頭大刀の研究成果については、査読付雑誌論文に掲載することができた。鉄地銀象嵌圭頭大刀の研究成果は、来年度発行する研究成果報告書に盛り込める見込みである。 3つめの研究課題である獅噛環頭大刀については、茨城県梶山古墳例の資料調査を行った。また、先行研究に基づき、報告書に掲載された実測図と写真の集成をほぼ終えている。実物資料の調査には今年度着手する予定である。 本研究の課題である装飾付大刀の流通と氏族制の関連については、圭頭大刀について執筆した雑誌論文および昨年度刊行した単著において見通しを述べた。それに円頭大刀と獅噛環頭大刀の分析を加えれば、論旨を補強できると考えている。 以上の状況から、本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。なお、新型コロナウイルスの再拡大など、予想していない事態が生じた場合には、獅噛環頭大刀の資料調査を延期して円頭大刀の論文執筆を優先するなど、柔軟に対応したい。
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今後の研究の推進方策 |
研究期間の最終年度に当たる本年度は、鉄地銀象嵌円頭大刀の資料調査を広く行う予定である。具体的には、福岡県うきは市、愛知県豊橋市、静岡県静岡市、東京都、群馬県太田市、宮城県多賀城市などで実物資料の実測と写真撮影を行う。また、すでに資料調査を終えている鉄地銀象嵌圭頭大刀、金銅装円頭大刀について、研究論文を執筆する予定である。 つぎに、装飾付大刀と氏族制に関する考察を進める。これまで執筆した論文で、双龍環頭大刀と蘇我氏、頭椎大刀と物部氏、圭頭大刀と上宮王家の関係について論じた。同様な論理が円頭大刀や獅噛環頭大刀についても当てはまるのか、大刀の分布、出土文字資料、共伴する副葬品などを参考にして検討する。この作業には、地域を限定した検討が有効と考えられる。現時点では福島県、群馬県、静岡県などが有力な候補地と考えている。3地域における氏族研究なども収集中である。 研究の成果は論文として学術雑誌に投稿するとともに、本研究の研究成果報告書『装飾付大刀の生産と氏族制にかんする研究』にとりまとめる予定である。同書には金銅装圭頭大刀、鉄製圭頭大刀の個別研究のほか、円頭大刀に関する予察を掲載する。 なお、研究を遂行するうえで、獅噛環頭大刀の資料調査がやや遅れ気味である。実物資料の調査まで到達できない場合、報告書の実測図や写真に基づき、分類、編年、分布等の検討を進めて対応する。
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