研究課題/領域番号 |
21K00991
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
山舩 晃太郎 九州大学, 比較社会文化研究院, 共同研究者 (60899516)
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研究分担者 |
菅 浩伸 九州大学, 比較社会文化研究院, 教授 (20294390)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 水中考古学 / 水中文化遺産 / 水中ドローン / ROV / フォトグラメトリ / 水中戦争遺跡 / 水中フォトグラメトリ / 船舶考古学 |
研究実績の概要 |
2021年度は基盤研究Cの初年度として水中ドローンにアクセサリとして装着させるフォトグラメトリ機材の初期開発を行った。
プロトタイプとして開発した機材(100mより浅い水深でのみ使用可能)を使用し、4月1日~7日に沖縄県与那国島のダイビングスポットとしても有名な海底地形の3Dモデル作成をおこなった。このプロトタイプは水中カメラ5台、水中ライト8台搭載したもので、九州大学浅海底フロンティア研究センターが所持するCHASING M2という水深100mまで潜航可能な小型水中ドローンに装着させた。調査では全長300m、最大幅80mの広範囲を搭載カメラで撮影し、デジタル写真からフォトグラメトリの技術を用いて3Dモデルを作成した。今回の調査の最大水深は40m程度であった。
続いて2021年7月に鳥取県沖で95年前(1927年)に訓練中の事故により沈没した駆逐艦蕨(わらび)(水深約200m地点)の3Dモデル作成に挑戦した。この7月のプロジェクトでは沈没船の水深が200mと深かったので、九州大学浅海底フロンティア研究センターと株式会社ワールドスキャンプロジェクトの力をお借りして水深250mまで潜航可能なフォトグラメトリアクセサリを開発。この機材をMURAKUMOと命名した。7月17日~25日にかけて地元の美保関沖事件慰霊の会、ワールドスキャンプロジェクト、遊漁船JoyFisher、日本海洋事業株式会社の協力を得てプロジェクトを実施。水深が約200mと深かったためワールドスキャンプロジェクトが所持するBlueROV2(水深300mまで潜航可能)をお借りした。このプロジェクトによって作成された駆逐艦蕨の詳細な3Dモデルにより、水中文化遺産の保護と底引き網漁による遺跡の破損の関係性が明らかになった。これらの調査成果と3Dモデルは美保関事件慰霊の会によって地元への報告会と資料館での展示として使われた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
初年度にして既に第一目標であった『小型の水中ドローン(ROV)に装着可能なフォトグラメトリ専用アクセサリの開発』に成功し、2回の実地試験においてその有効性を証明することができた。
水中ドローンを計画通りの進路で操縦する(取り残しの個所がなくスキャンする)、また水深が深くなった場合でも船上から投下した水中ドローンを目的の水中遺跡(対象物)に効率よく(迷わず)到達させる、という2点での課題はみられたが、『複数台のカメラと水中ライトも搭載したアクセサリによって詳細な水中でのフォトグラメトリによる3Dモデルを作成する』という今回の基盤C研究の主のコンセプトの実用性は十分示せたといえる。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度に行った2回の実地試験では①水深が深い、②海中の流れが早い場合で、水中ドローンの操縦性に課題がみられた。 元々の小型の水中ドローンには本体と同様の大きさのアクセサリを装着するようにはデザイン・設定されてはいないため、フォトグラメトリ専用アクセサリ(MURAKUMO)装着時の水中ドローンの操縦性が著しく減少した。更にアクセサリ装着時での水中ドローンのバッテリーの減りが早くなり、現地でのオペレーションでは水中ドローンのバッテリーが30分~45分程度で切れてしまうため、結果として水中ドローンの予備電池が4個以上必要となった。国内でのフォトグラメトリシステムの運用に必要な予備電池の輸送は船便でカバーできるが、海外へ航空便を使っての予備電池の輸送は制限がかかるため、このフォトグラメトリシステムの海外での運用が難しくなっている。
これらの問題を解決するための方法として、2021年度に開発した【水中カメラ5台+水中ライト8機】ではなく、【水中カメラ2台+水中ライト4機】搭載型の水の抵抗を少なくした簡易型のシステム(MURAKUMO MINI)を試作中である。フォトグラメトリ専用アクセサリーを2021年度の試作機より小型化し、更に水の抵抗を少ないデザインにすることによって機動力を向上し、少ないカメラでも2021年の大型試作機と同様の結果を得られるかの試験を予定している。世界的なコロナ感染症が落ち着きつつある2022年度には米国などにあるより保存状態の良い水中沈没船遺跡での実地試験を予定している。成功すればスーツケース一つで世界中に持ち運び可能な水中ドローン用のフォトグラメトリ専用アクセサリとなり、世界中の水中文化遺産でのこのシステムの運用が可能となる。
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次年度使用額が生じた理由 |
開発したフォトグラメトリ専用アクセサリを搭載する小型水中ドローン(ROV)を当初は2021年度の予算を使い購入予定であったが、同年度に行われた第1回目の実地調査では九州大学浅海底研究センターが保有する小型水中ドローンを、第2回目の実地調査では株式会社ワールドスキャンプロジェクトの保有する小型水中ドローンを使わせていただいた。今回の研究基盤Cでは水中ドローン本体ではなく、水中ドローンに装着するフォトグラメトリ専用アクセサリ機材の開発が目的である。そのため備品である小型水中ドローンを購入せず、実地調査には既に他の研究機関が保有している様々な種類の水中ドローンを使用させていただけることにより、各水中ドローンとの互換性の確認が可能となった。
前年度から持ち越した予算を使い、今年度はより小型の試作機(MURAKUMO MINI)の開発を行い、更に今年度の予算が余れば、ミクロネシア連邦チューク諸島に眠る全長100mを超える水中戦争遺跡での同システムを用いてのフォトグラメトリ3Dモデル作成を予定している。
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