研究課題/領域番号 |
21K00991
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
山舩 晃太郎 九州大学, 比較社会文化研究院, 共同研究者 (60899516)
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研究分担者 |
菅 浩伸 九州大学, 比較社会文化研究院, 教授 (20294390)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 水中考古学 / 水中文化遺産 / 水中ドローン / ROV / フォトグラメトリ / 水中戦争遺跡 / 水中フォトグラメトリ / 船舶考古学 |
研究実績の概要 |
(1)水中ドローンによる18世紀沈没船のフォトグラメトリ3次元計測 場所:バーモント州・シャンプレーン湖。日程:7月10日~22日。 内容:科研費基盤Cの研究として、前年(令和3年度)に使用した機材より1/3程度の安価なもの開発した。その実地テストとして水深40m~80mに沈むUSSスピットファイア号のフォトグラメトリによるデジタル3Dモデル作成を行った。USSスピットファイア号は1776年に沈没した米国独立戦争時のガンボートである。これまでその水深の深さから実測図作成などの学術的調査は行われてこなかった。今回は前年までとは違い海外での調査なので、水中ドローン本体や予備バッテリー、そして搭載するカメラや照明機材を令和3年度の調査よりも軽装化し、今後に見据えている海外のへき地での調査にも応用できるように改造した。今回の調査結果として今後のモニタリングの基礎となるUSSスピットファイア号のデジタル3Dモデルと遺跡の実測図を作成した。今後はこの装備でスイスやモンゴルなどにある標高の高い湖での運用試験を行う予定である。 (2)戦争遺跡保護のためのフォトグラメトリ講習会 場所:サイパン。日程:12月19日~26日。 内容:科研費基盤Cの目的の一つである「太平洋に眠る水中戦争遺跡の保護」を実践するため、サイパン現地に住む日本人のダイビングショップ経営者の12名へフォトグラメトリを使用した遺跡のモニタリングの方法論を学んでもらうため、6日間にわたるフォトグラメトリ講習会をサイパンで行った。この講習会の中で基盤研究Cで開発した機材を用いた実演会も行った。既に劣化による崩壊が始まっている太平洋の水中戦争遺跡の保護には、一年に数回しか訪れない研究者よりも、そこに住み毎日のように水中戦争遺跡を訪ねている、現地の日本人ダイバーの協力が必要不可欠である。その第一段階として今回のフォトグラメトリ講習会を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
初年度に水中ドローン用のフォトグラメトリアクセサリ機材の土台は既に完成した。実在の水中遺跡での実地テストを行い、鳥取県水深約200メートルに沈む駆逐艦蕨(わらび)のデジタル3D作成に成功した。しかしながらアクセサリ本体(8機の水中ライトと、その重さを相殺するための浮力体)の大きさと、搭載カメラの台数(5台)により、このシステムの持ち運び(運用)と、取得データの処理が難しいという欠点が見えてきた。 2年目となる今年度はこのフォトグラメトリアクセサリの本体の形状と、カメラシステム自体に改良を加え、新たに水中カメラ2台+水中ライト4機の軽量型での新システムを開発。アメリカのバーモント州シャンプレーン湖にてシャンプレーン湖海事博物館の助力の基にこの新機材を用い、水深40m~60m地点に沈む沈没船(USSスピットファイア号)のデジタル3Dモデルの作成に成功した。 この新システムは水深80mまでの運用が可能で、機材の持ち運びが容易なうえに、取得データの扱い(3Dモデル作成)も簡単であるために、開発者である山舩以外も容易に扱えるという長所がある。 その後、水中戦争遺跡の保護活動の一環で行った北マリアナ諸島のサイパン島で開催した水中フォトグラメトリワークショップにて、水中ドローンの扱いと、ドローンを使用したフォトグラメトリである、この新システムのデモンストレーションを地元ダイビングコミュニティ相手に行い、研究内容と技術の普及を行うこともできた。 科研費申請当初の計画では、この改良(簡易)型新システムの開発・運用予定はなく、2年目にして、この簡易システムの開発の成功と、市民(サイパンの在住日本人ダイビングコミュニティ)相手に研究内容と技術の指導を行えた事実は、今後の水中文化遺産保護における意義はとして大きい。
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今後の研究の推進方策 |
この研究において残る課題は【作成したデジタル3Dモデルのスケーリング】である。今研究において既に水中ドローンに搭載できるフォトグラメトリ用のアクセサリ(機材)開発は90%以上成功したといえる。2年目終了時点までに開発した2つのシステム(初年度ものと2年目の簡易型)を用いて、水深200mまでと水深100%までの水中文化遺産の詳細部分まで3Dモデル化が可能となった。 残る最後の課題は【作成されたデジタル3Dモデルにどのように正確な寸法を与えるか?】である。デジタル3Dモデルにもバーチャル空間上で寸法を付与することが出来る。この寸法は【水中文化遺産のモニタリング】という意味ではさほど重要でないが(なくても良い)、今後に学術データとしての実測図作成や、近い将来大型の3Dプリンターが登場した際に、正確な大きさの模型をデジタル3Dモデルから書き出す際に重要な要素となる。このスケーリングを可能にする上では、①水溶性のスケールバーを水中遺跡に置く、②水中ドローンにレーザーポインターを搭載させる。等のアイディアはあるので、最終年度である今年はそれらを試し、このシステムを用いて作成されたデジタル3Dモデルのスケーリングに最良な方法を見つけることを目的とする。
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