研究課題/領域番号 |
21K00993
|
研究機関 | 京都芸術大学 |
研究代表者 |
岡田 文男 京都芸術大学, 芸術学部, 客員教授 (60298742)
|
研究分担者 |
大谷 育恵 京都大学, 白眉センター, 特定助教 (80747139)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | 鉄黒漆 / 鳥浜貝塚 / アスファルト / 目梨泊遺跡 / 掃墨 / 中尊寺金色堂 / モンゴル / 漢代中央工官製漆器 |
研究実績の概要 |
本研究では令和5年度に、研究代表者が国内の漆器調査3件、研究分担者がモンゴル出土中国漢代の中央工官製漆器の調査1件を行った。国内に関して1件目は、福井県若狭町に所在する鳥浜貝塚出土の縄文時代前期の表面が黒く見える漆器の塗膜分析である。既往の調査では、縄文時代の表面が黒く見える漆については成因が不明であった。今回、京都市産業技術研究所の協力を得て表面が黒く見える漆塗膜の熱分解質量分析により、アスファルトを検出したが、鉄黒漆は認められなかった。アスファルトを検出した成果を福井県立若狭歴史博物館発行の『鳥浜貝塚研究』8に報告し、調査終了とした。成果の一部について、令和6年度に文化財保存修復学会第46回大会ならびに日本文化財科学会第41回大会で発表する。2件目は、北海道枝幸町に所在する目梨泊遺跡から出土した9世紀初頭頃の黒色漆に蒔絵を施した刀剣外装の分析である。分析の結果、黒色漆からススを検出したが、鉄黒漆は認められなかった。成果の一部を東アジア文化遺産保存国際シンポジウムにおいて「目梨泊遺跡出土オホーツク時代の刀装具の技法材料分析からみえる東・北東アジアのグローバル交易」と題した発表を行った。3件目は、1124年創建の中尊寺金色堂壁面の黒色漆の塗膜分析である。創建当初の塗膜断面にススを確認したが、鉄黒漆は認められなかった。しかしながら、昭和修理において鉄黒漆を用いたことが判明した。海外の調査ではモンゴルの匈奴墓から出土した中国漢代の中央工官製漆器の黒色漆の塗膜調査を行った。中国漢代の中央工官製漆器には黒色漆に掃墨が混和されており、鉄黒漆は確認できなかった。成果の一部を金大考古83号に投稿し、刊行待ちである。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は「日本における「鉄黒漆」利用開始期の解明」を目的として、令和3年より3年間で行う計画であった。しかしながら、当該期間は新型コロナの流行と重なったため、令和3年度、4年度には調査活動に行動制限があり、当初予算を計画通りに遂行することは困難であった。 そこで、当初の予算を計画通りに遂行するのでなく、研究期間を1年間延長することにより、学会発表、論文発表等の成果発表を充実させ、残額をその経費に充当することとした。 学会発表については令和6年度に文化財保存修復学会第46回大会、日本文化財科学会第41回大会での発表を行う。論文投稿は金大考古83号(確定)、85号(投稿中)、Asian Archaeology(投稿中)、Journal of Archaeological Sciences(投稿予定)等がある。 当初予算の使用残額は学会発表ならびに論文発表のために外部委託する年代測定費用、英文投稿のための資料作成費用、顕微鏡のメンテナンス費用等に充当する
|
今後の研究の推進方策 |
国内の漆器資料については令和6年度に鳥浜貝塚出土縄文漆器の分析結果を文化財保存修復学会第46回大会においてポスター発表1本、日本文化財科学会第41回大会において口頭発表1本を予定している。目梨泊遺跡出土刀剣外装の蒔絵のある黒色漆、中尊寺金色堂塗膜の黒色漆の調査結果についてはそれぞれ令和6年度中に報告予定である。 海外の漆器資料については、モンゴル出土漢代中央工官製漆器の黒色漆の調査結果を金大考古83号に投稿済(刊行待ち)、Asian Archaeologyにモンゴルの調査結果を投稿(査読中)、金大考古85号(投稿中)、Journal of Archaeological Sciencesに投稿予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本研究の1年目、2年目に新型コロナによる行動制限の影響があったことから資料調査等が遅れた。そのため、調査に関して計画通りに予算を執行できず、次年度に使用残額が生じた。使用残額については学会参加費用(東京2回)、論文執筆費用、顕微鏡(生物・偏光)メンテナンス費用等に充当する予定である。
|