研究実績の概要 |
漆は、ウルシ樹木の樹液であり、重要文化財や伝統工芸品等に使用されてきた日本最古の塗料である。一般の塗料は溶媒の揮発乾燥により塗膜を生成するが、漆は主成分であるウルシオールがラッカーゼによって酸化重合することで、硬化乾燥して塗膜を作り塗料として機能する。 ウルシの青色ラッカーゼは、最初に発見されたマルチ銅オキシダーゼであり、モデル酵素として単離酵素の触媒機構、機能、性質、構造等について詳細に研究されてきた。一方、漆樹液中の非青色成分は、青色ラッカーゼの精製過程で除去されるため分析されなかった。本研究では漆樹液の非青色成分中に新たな漆塗膜生成因子として発見した黄色ラッカーゼの機能と構造を分析し、漆塗膜生成に黄色ラッカーゼが果たす役割を解明することを目的とした。 ウルシ樹液よりアセトンパウダーを調製し精製水で抽出してラッカーゼ粗酵素を得た。同試料をカラムクロマトグラフィー(SP-Sepharose)および等電点電気泳動により分離精製し、黄色ラッカーゼの分析を行った。木材由来の芳香族化合物と共通する化学構造を持つシリングアルダジン、2,6-ジメトキシフェノール、グアヤコール、3-メチルカテコール、4-メチルカテコールを基質に使用した場合、青色ラッカーゼの最適pH8.0、黄色ラッカーゼの最適pH6.0-7.5が検出された。一方、基質にABTSを使用した場合は、青色ラッカーゼの最適pH3.0、黄色ラッカーゼの最適pH3.5が検出された。精製した黄色ラッカーゼは、分子量約10万kDaの単一ユニットからなる酵素タンパク質であることがSDS-PAGE分析により明らかになった。さらに、本酵素はタンパク質一分子当たり、銅元素を1原子含むことがICP-MS分析により判明した。これらの結果より、ウルシの黄色ラッカーゼは青色ラッカーゼとは異なる性質を持つことが明らかになった。
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