研究課題/領域番号 |
21K00997
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研究機関 | 独立行政法人国立美術館東京国立近代美術館 |
研究代表者 |
大傍 正規 独立行政法人国立美術館東京国立近代美術館, 企画課, 主任研究員 (40580452)
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研究分担者 |
大関 勝久 名古屋大学, 未来材料・システム研究所, 特任教授 (00774952) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | カラー映画フィルム / 色再現 / スペクトル分析 / デジタル映画 / 主成分分析 |
研究実績の概要 |
本研究では、カラー映画フィルムの分光透過スペクトルに対して、主成分分析(Principal Component Analysis)を行うことにより、当該フィルムの色彩の分光特性を把握した上で、デジタル環境においてカラー映画フィルムのスペクトルを忠実に再現する手法の確立を目指している。本年度は、国立映画アーカイブ(NFAJ)が所蔵するカラー映画フィルムの中から、色再現手法を確立するのに最適な、褪色の見られない『鎌倉カーニバル』(1951年)を選定し、NFAJが近年導入した測定アパーチャーが1mmφ単位の分光器の一部を改良して測定精度を上げるとともに、測定箇所を広範囲にとることで、当該フィルムの主成分分析の精度向上が確認できた。 本年度末の2022年3月31日には、NFAJ相模原分館にて、合同研究会「スペクトル解析に基づく映画フィルムのデジタル色再現に向けて」を実施した。研究代表者である大傍正規が「『狂った一頁』(1926)の色再現に向けて」と題して、戦前日本におけるアヴァンギャルド映画の代表作として世界的にも名高い『狂った一頁』[染色版](1926年、衣笠貞之助監督)のデジタル復元に向けて、スペクトル分析に基づくデジタル色再現の手法が応用可能であることを明らかにした。研究分担者である大関勝久氏は「『鎌倉カーニバル』のスペクトル解析に基づくデジタル色再現-分光器の改善とスペクトル測定方法の改良による再現手法の精緻化について」と題して研究発表を行うとともに、NFAJ内部でより適切に色再現を行うことが可能な環境を整えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
NFAJ内部において、カラー映画フィルムの分光透過率データに対する主成分分析ならびに累積寄与度の算出ができる環境は整った。しかし、NFAJが導入したフィルム・スキャナーの分光特性の把握や、大量のスキャンデータをスペクトルデータに変換するための作業環境が十分ではなかった。今後は、スキャナーの分光特性の把握を行うとともに、データ処理能力に優れたパソコンを適宜追加する等して作業環境の改善を目指す。
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今後の研究の推進方策 |
1)本年度に研究分担者として研究に従事した大関勝久氏は、令和4年3月31日付で名古屋大学未来材料・システム 研究所特任教授の職を定年退職したため、科研費の受け入れ機関を失ったが、今後も研究協力者として研究に従事する。 2)NFAJが導入したフィルム・スキャナーの分光特性の把握を行うことで、NFAJが所蔵する多くのカラー映画フィルムの色彩をデジタル環境上で適切かつ安価に色再現できる環境を整える。 3)NFAJは本年度に『狂った一頁』[染色版]の可燃性35mm青染色プリントをもとにアナログ復元を実施し、その成果は上映企画 「発掘された映画たち2022」において披露された。しかし、白黒フィルムを物理的に青染色したアナログ復元版では、可燃性プリントに残存する青の色彩を必ずしも正確に反映できた訳ではなく、スペクトル分析に基づくデジタル色再現の手法を応用できる余地を残す。次年度には、『狂った一頁』[染色版]の分光測定、スペクトル分析、褪色補正の研究等に取り組む予定である。 4)海外における先端的研究の調査や、国際会議で実施する研究発表等のため、海外出張も予定しているが、新型コロナウィルスの感染拡大の影響を注視しつつ、リモート参加等の対応も検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
NFAJ内部において、大量のスキャンデータをスペクトルデータに変換するために必要なデータ処理能力に優れたパソコンの購入が遅れたため。また、新型コロナウイルスの感染状況に鑑み、国内出張をリモート会議等にて代替したため、翌年度に繰り越し使用することとした。
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