研究課題/領域番号 |
21K00998
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研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所 |
研究代表者 |
柳田 明進 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 埋蔵文化財センター, 主任研究員 (30733795)
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研究分担者 |
小椋 大輔 京都大学, 工学研究科, 教授 (60283868)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 出土鉄製文化財 / 古墳 / 現地保存 / 腐食 / さび / 交流インピーダンス / 数値解析 |
研究実績の概要 |
令和5年度は、古墳石室内での鉄製文化財の腐食モデルを構築するため、1)乾湿繰り返し腐食実験、2)乾湿過程における腐食のモデル化、3)古墳出土さび層片の組成および構造解析、を実施した。1)乾湿繰り返し腐食実験では、砂質土を充填したカラムの下端に炭素鋼の電極を設置し、カラム内の砂質土を水分飽和から乾燥させていき、その後、水分を供給し飽和状態とすることで乾湿を繰り返した。この際、2電極法による交流インピーダンス測定から溶液抵抗および分極抵抗を算出することで、砂質土の乾湿を繰り返す過程での腐食速度をモニタリングした。その結果、湿潤時の腐食速度は乾湿の回数が増加するごとに上昇する傾向が認められた。腐食によって形成されたさびの還元反応が生じることで腐食速度が増加する可能性が示された。2)乾湿繰り返し過程の腐食のモデル化では、腐食実験の結果に基づき、腐食によって形成されたさびの還元を考慮したモデルとして、さびに含まれるγ-FeOOHの還元反応を考慮したモデルを構築した。3)古墳出土さび層片の組成および構造解析では、国内の異なる2基の古墳から出土した鉄製文化財のさび片を対象とし、μ-X線CT、窒素・水蒸気吸着法による構造の解析およびクロスセクションのXRF、μ-XRDにより組成の分析をおこなった。その結果、さび層内は内部に高密度のさびが層状に存在し、細孔は主にマイクロ孔から構成されていることから、物質移動の抵抗として作用すると考えられた。また、さび層は主にα-FeOOHおよびFe3O4から構成されており、さび層中のγ-FeOOHの還元による腐食促進の可能性は低いと考えられた。得られた成果については、学術雑誌および日本文化財科学会などで学会発表をおこない公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
古墳石室内での鉄製文化財の腐食のモデル化の過程で、土中での乾湿繰り返し環境下での腐食に関して新たな実験の実施が必要となった。そのため、令和5年度に乾湿繰り返し環境下での腐食実験を行い、そのデータを取得した。このため、当初の予定より研究の進捗はやや遅れている状況ではあるが、研究は着実に進展していおり、乾湿の繰り返し過程における腐食の挙動の把握、そのモデル化まで完了した。また、厚いさび層を有する鉄製文化財の埋蔵時の腐食をモデル化するためには、さび層の物性取得が不可欠であり、令和5年度には古墳出土さび層の組成、構造に関する一連のデータを取得することができた。室内実験から得られた腐食モデルとさび層の物性を考慮したモデルを構築することで、古墳石室内に埋葬された鉄製文化財の腐食を数値解析によって再現する技術を開発する本研究の目的が達成されると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
令和6年度はこれまでに取得した腐食実験データ、および、古墳から出土した鉄製文化財のさび層の物性データを統合して、古墳石室内での鉄製文化財の腐食速度を数値解析によるシミュレーションにて再現する。既に構築したさび層を伴わない炭素鋼の腐食速度シミュレーションのプログラムを基本とし、新たにさび層による酸素、鉄(II)イオンの物質移動抑制の効果を考慮したものとする。シミュレーションの妥当性の検討は模擬実験の腐食実験の結果と比較することで実施する。これらの技術により、古墳石室内に埋蔵された鉄製文化財の腐食速度の予測技術を確立する。また、得られた成果については学会発表、学術論文への投稿を行い、広く公表する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、3年間の研究期間を計画していたものの、鉄製文化財の腐食をモデル化する際に乾湿が繰り返される環境下での腐食実験とそのモデル化が必要となり、研究期間を延長することとした。これに伴い、令和6年度にこれまでの実験・調査成果を統合した、古墳石室内での腐食の数値解析を実施することとなったため、その成果を学術論文として公開するための論文構成費、オープンアクセス料などを最終年度に執行するため、次年度への使用額が発生した。
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