研究課題/領域番号 |
21K01003
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研究機関 | 岡山理科大学 |
研究代表者 |
亀崎 直樹 岡山理科大学, 生物地球学部, 教授 (50422366)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ウミガメ / 剥製 / タイマイ / アオウミガメ / 流通 |
研究実績の概要 |
東アジア地域にはウミガメ、特にタイマイとアオウミガメを剥製にして飾る文化が存在する。特に、1960年と70年代には日本、とくにそれらが生息する沖縄県で多量に生産された。また、インドネシア、ベトナム、シンガポール、マレーシアでも作られ、主に日本人が買い求めたようである。しかし、このウミガメについては民俗学的にも生物学的にもほとんど扱われたことがない研究対象である。日本、特に西日本の家屋にはウミガメの剥製が飾られていることが多い。しかし、このウミガメの剥製については絶滅危惧種であるにも関わらず、ほとんど学問的なアプローチがなされていない。そこで、申請者は以下の研究を考えている。 ウミガメの生産者の多くは不明であるが、一部ではあるが、その剥製の作り方の特徴から作者を同定することができる。今回の研究は、剥製の特徴からその作者を同定し、その作者がどのような由来のウミガメを用いて剥製を作ってきたかを明らかにすることを目的としている。それが明らかになれば、産地の不明であったウミガメの剥製も産地が明らかになり、標本としての価値も高まることが期待される。 これまでに明らかになった剥製の作者は、奄美大島の恵豊和氏、沖縄本島の目取真清子氏、宮古島の仲原龍盛氏、石垣島の山城新介氏などであるが、これらの人物からの聞き取り、そして自身で作られたことが明らかな剥製について、縫った場所、糸の材質、中に詰めたもの、さらには剥製の形などを計測さらには分析し、明らかに特徴的な形質について調べる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで、八重山諸島石垣島で山城親介氏からの聞き取りを行った。また、氏の作成したタイマイ25個体とアオウミガメ60個体の観察を行った。その結果、山城氏は地元の海人が採集したウミガメを使っており、それらは石垣島や西表島周辺で捕獲されたものであった。また、最も多く捕獲したのは比嘉正宗氏であるとのことであった。比嘉氏は故人であったため、その長男比嘉功氏に話を聞くことができた。比嘉氏によると、比賀正宗氏はウミガメの漁法を自分で編み出し、年間に数百個体捕獲していたとの事であった。そのほとんどは西表島の西部であり、山城氏が作成した剥製はほとんど西表島であることが明らかになった。ただし、山城氏の作成する剥製には特徴がなく、判別は難しいと感じた。他の判別方法については今後の研究に委ねる。 一方、沖縄本島では目取真清子氏からの聞き取りをおこなった。目取真氏の作成する剥製には、特に顕著な特長はないものの、頻繁に頭部や手足を個体間で交換することが明らかになった。したがって、手足に交換したような痕跡がある剥製は目取真氏が製作した可能性が高い。また、目取真氏からの情報により、浦添市内間に300個体を超える剥製があることがわかり、確かにそこにあることを確認した。この剥製は1970年頃にフィリピンのセブ島より鹿児島県志布志市の大平亀工場に一旦輸入された後、放置されていた。そこで漢那用哲氏がそれをもらい受け、ここに保管したものであった。現在、その所有を国立科学博物館のものになるように手配を進めているところである。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの計画では、沖縄を含めた東南アジアのはく製文化を相対的に把握し、その特徴をつかむことを目的としていた。しかし、コロナ下においてその計画はかなり変更せざる負えない状況になってきた。また、シンガポールやインドネシアなどの情報によれば、街中にはウミガメはく製を見ることはほとんどなく、存在してもどこか陽の当たらない場所に存在するのであろう。したがって、研究の中心は日本に移すべきと考える。一方、日本では南西諸島ではく製を制作し、販売するだけでなく、フィリピンなどから大量に輸入していた業者も鹿児島県志布志市に存在することが明らかになったように、国内でも東京の商社がそれを扱っていたことが明らかになりつつある。 つまり、はく製は八重山、宮古、沖縄本島、沖永良部島、奄美大島で製作された以外に、外国から業者によって大量に輸入されたものが存在していることが明らかになってきた。その一部は鹿児島県長崎鼻、沖縄県恩納村万座毛で販売されていることが明らかになっている。このように日本のはく製の流れの中に外国産のものが入ってきていることは、日本で作られたはく製を研究する身にとっては、大変厄介なものである。少なくとも、大量に輸入したものについては、その作成場所や作成者が明らかにできればと思っている。 従って、今後の研究計画は国内、特に南西諸島でさらに聞き込みを続けるほか、大量に輸入していたとする業者を把握することに努めたい。
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