研究課題/領域番号 |
21K01016
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
吉田 圭一郎 横浜国立大学, 教育学部, 教授 (60377083)
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研究分担者 |
比嘉 基紀 高知大学, 教育研究部自然科学系理工学部門, 講師 (60709385)
石田 祐子 神奈川県立生命の星・地球博物館, 学芸部, 学芸員 (80846725)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 植生の長期変化 / 森林動態 / 森林限界 / 地形 / モミ-イヌブナ林 / 無人小型飛行機(ドローン) |
研究実績の概要 |
本研究では,植生帯移動の地形依存性についての検討するために,1)植生帯境界における植生の長期変化を明らかにするとともに,2)地形により異なる森林の動態プロセスを解析して,それらを関連づけることで,3)地形に依存した植生帯移動を実証的に解明することを目的としている.令和3年度は,以下の調査・研究を実施した. 利尻島では,安定した立地での植生の長期変化について明らかにした.過去に撮影された空中写真や小型無人航空機(ドローン)で主とした画像を解析した結果,利尻岳西向き斜面では森林限界が1.0m/yrの速度で上昇していることを示すことができた.森林限界付近では,ササ草原やハイマツ群落がダケカンバ林に置き換わっており,このことが森林限界の上昇に寄与していると推察した. 仙台・鈎取山国有林では,モミ-イヌブナ林を対象として60年前に設置した調査区(0.3ha)の再調査を実施した.取得した植生データの一次解析の結果,林冠木の種組成や主要な樹種の相対優占度に大きな変化はみられなかった.樹種別の直径階分布から,モミとイヌブナをはじめとしたその他の落葉紅葉樹とでは更新過程が異なっていることが示唆されたものの,森林全体を対象とした直径階分布は逆J型であり,モミ-イヌブナ林が長期間維持されていることが分かった.その一方で,低木層を構成する樹種の個体数が増加するなど,森林の階層構造が以前に比べて発達する様子もうかがえた. これらの調査解析結果は,関連学会において発表するとともに,一部は学術雑誌の査読付き論文として公表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画のうち,利尻島と仙台・鈎取山国有林については,植生の長期変化の実態について明らかにすることができた.特に,利尻島については,欧米に比べて研究事例の少ない北東アジアにおいて,森林限界の変化を明示した論文として評価され,学術論文として公表することができた.また,仙台・鈎取山国有林での調査結果については,関連学会において発表するとともに,学術論文としての発表に向けて取りまとめを進めている.令和3年度はコロナ禍での移動の制約により,研究計画通りの現地調査の実施は困難であった一方で,既存データを最大限に活用した調査研究を遂行し,一定の成果を示すことができたことから,「おおむね順調に進展している」と評価した.
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度は各調査地において,以下のような調査研究を実施する予定である. 1.利尻島:利尻島では,沓形および種富溶岩上の安定した立地において,特に森林限界の上昇に寄与しているダケカンバに着目した現地調査を実施し,その林分構造や樹齢分布などから森林限界の動態プロセスを明らかにする.また,地表面撹乱を受けやすい火山麓扇状地において,地形および標高傾度に沿った植生調査を実施し,地形や地表面物質と森林動態との関連性を検討する. 2.仙台・鈎取山国有林:令和3年度に取得した植生の長期変化に関するデータの解析を進め,主要な構成樹種の更新過程を把握することを通して,モミ-イヌブナ林の60年間の森林動態を明らかにする.また,優占種であるモミについて着目し,生活史ステージ毎の空間解析を行うことで,更新過程を背景としたモミの空間分布パターンと地形との対応関係について検討する. 3.箱根・函南原生林:2005年から2014年までの植生データに,現地調査により取得する2022年のデータを加えて解析を行い,植生帯境界における植生の長期変化について明らかにするとともに,標高や地形の傾度に沿った林冠構成種の更新過程を明らかにする.また,無人小型航空機(ドローン)による撮影を実施し,過去の空中写真との比較から,植生帯境界の変化について把握し,地形との関連性について検討する. 令和4年度に得られた成果については,積極的に関連学会において発表するとともに,国際的な学術雑誌等で公表することを目指す.
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次年度使用額が生じた理由 |
理由: 新型コロナ感染症の拡大防止のため,県をまたぐ移動が制限され,令和3年度に計画していた研究代表者,研究分担者,および研究協力者による利尻島および箱根・函南原生林における現地調査が実施できなかったため. 使用計画: 令和3年度に予定していた現地調査を,改めて令和4年度に実施する.すなわち,利尻島での現地調査は6月と10月の複数回行い,また箱根・函南原生林については5月から11月にかけて精力的な現地調査を実施して,現地における植生データの着実な取得を目指す.既に,利尻島での調査については外部の研究協力者とのスケジュール調整済みであり,また箱根・函南原生林についても現地調査の遅れを取り戻すべく,調査協力者の手配を進めているところで,研究計画で企図した植生データの取得が十分に可能であると考える.
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