研究課題
本研究では,植生帯移動の地形依存性についての検討するために,1)植生帯境界における植生の長期変化を明らかにするとともに,2)地形により異なる森林の動態プロセスを解析して,それらを関連づけることで,3)地形に依存した植生帯移動を実証的に解明することを目的とした.利尻島では,利尻山西向き斜面の森林限界付近において,過去40年間でササ草原やハイマツ群落がダケカンバ林に置き換わっており,森林限界が1.0m/yrの速度で上昇していた.また,火山麓扇状地での微地形と植生分布との対応関係や2015年に発生した風倒被害などの状況から優占種の更新動態が植生分布やその長期変化に関わることを示唆した.仙台・鈎取山国有林では,モミ-イヌブナ林において種組成や相対優占度に大きな変化はみられないものの,低木種の個体数が増加するなど,階層構造が発達しつつあることが分かった.また,立木の空間解析から,優占種モミの新規加入や実生の生長には攪乱によって林床の光環境が改善される必要があると考えられた.函南原生林では,植生帯移行部に設置した大面積調査区における再調査から,17年間で常緑広葉樹が増加しており,常緑-落葉広葉樹林の境界域が近年上昇していることが示唆された.立木の空間解析から,こうした植生変化には,常緑広葉樹と落葉広葉樹との競合関係が関与している可能性を示した.本研究では,利尻島と函南原生林において植生帯境界が標高に沿って上昇しつつあり,その移動には優占種の更新動態や種間相互作用が関与していることが明らかになった.特に,利尻島では地表面状態や微地形が優占種の更新動態に影響しており,地形によって異なる植生帯の移動に関わると推察された.これらの成果から,植生帯移動には地形依存性があり,気候変化による植生分布の将来予測では地形を考慮する必要性が示された.
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Journal of Vegetation Science
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