研究課題/領域番号 |
21K01018
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研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
野津 雅人 東京都立大学, 都市環境科学研究科, 特任研究員 (30510432)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 降水 / 季節変動 / 島嶼気候学 / 地上気象観測 / 衛星観測データ解析 |
研究実績の概要 |
30 年間平均の気候値で,伊豆諸島は梅雨期と台風期に加えて3月に水害を起こすレベルの降水量を伴う3つめの降水ピークをもち,小笠原諸島は7月に渇水を起こしうる降水極小をもつ.本研究は,「これらの降水季節変化の特徴は何か? その特徴をもたらす要因は何か? それらは,日本の南海上の 1, 000 km スケールの降水システムの中でどう位置づけられるか? 小スケールの島の地形要素にどう左右されるか?」という学術的問いに答えるため,以下にあげる目的を達成するために行われている.その目的は(1)降水の季節変化の特徴を明らかにし,(2)この特徴をもたらすメカニズムを(a)周辺の広い海域を含めた降水対流活動の中での伊豆・小笠原諸島の位置づけという「大きなスケール」,(b)海域に孤立した島という険しい地形の効果という「小さなスケール」に着目して理解する,ことである.
2021 年度は,気象庁や降水衛星観測 TRMM,GPM による長期降水データを整備・品質管理を行った.また,当初の解析予定を変更して,衛星観測ベースのデータを元にした「大きなスケール」,気象庁データを用いた「小さなスケール」の降水季節変動を関連づけて解析した.これにより,3ピークをもつ降水季節変動が起こるのは,東日本南岸沖から日付変更線付近まで緯度5度程度の南北幅で東西に細長い領域であることが分かった.伊豆諸島では,八丈島と青ヶ島の間付近に領域の南限が存在した.さらに,この3ピークに3月が含まれるのは東経 160 度付近までであり,黒潮およびその続流域の経路に近いことが分かった.これらの成果をまとめて日本気象学会大会で発表し,学術誌へ投稿するための準備を行っている.
当初よりも遅れたものの,八丈島の観測空白域2ヶ所での測器設置を行った.初期観測データ取得を行い,気象庁データと比較して妥当な結果を得た.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
解析課題においては、今年度の遂行が難しいものに代えて次年度の課題を先行して行った、また、観測課題においては、入手・設置が遅れたものの本研究のターゲットとする観測には間に合った,もしくは間に合う予定である,ことから,「おおむね順調に進展している」と評価した.以下,詳細に判断理由を述べる.
新型コロナウイルス蔓延による測器設置の遅れが懸念されたため,本研究で設置する観測点において取得できる雨量データの長さが,年度中では十分でなくなると考えた.そこで,当初予定の気象庁長期観測データを用いた「小さなスケール」の降水の気候学的特徴の詳細解析に代えて,次年度に予定していた衛星観測データを用いる「大きなスケール」の降水季節変動の解析,および,気象庁データおよび衛星観測データの比較解析を先行して行った.この結果は,既に学会発表を行い,学術誌への投稿準備を進めている.このように,先行して入手可能なデータを用いることで,解析に関しては,計画全体の達成へ向けて問題なく進捗できている.測器設置は当初よりも遅れたものの,初年度中にメインターゲットとなる3月の降水に間に合う運びとなった.実際に,2022 年3月中に,2つの南岸低気圧を含む,5事例の降水イベントを捉えた.
一方,次年度はドローンを用いた伊豆諸島での接地境界層における気象要素の鉛直分布の高頻度観測を行う予定である.このドローンは,2021 年度に耐水性のあるものを新たに導入し,研究代表者所属の研究室の現有ドローンと組み合わせた観測に用いる予定であった.しかし,新型コロナウイルスの蔓延のため,ドローンの製造所がある中国南部でのロックダウンの影響を受けて,まだ入手できていない.このことから,耐水ドローンの新規導入予定の見直しを行い,代替となりうるドローンを既に選定済みである.これらを入手し,計画全体の達成に遅れがないように努める予定である.
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今後の研究の推進方策 |
「現在までの進捗状況」でも言及したように,本研究では測器や観測機器の設置や入手の面で新型コロナウイルス状況による大きな制限を受けて,当初計画通りの進展ができていない.解析および観測機器の入手計画に大きな変更を余儀なくされている.今後もこのような状況が続く,あるいはさらに悪化することも見据えて,状況に応じて,研究計画全体を達成するために,フレキシブルに研究計画や内容を変更しながら進めていく予定である.
解析については,2021,2022 の2年度中に予定されていた解析を,2022 年度のうちに予定通りに進める算段が整った.したがって,2021 年度にできなかった部分を中心に進めて行く.測器を搭載するドローンについては,当初よりも安価な耐水ドローンを入手できる可能性が出てきた.しかし,機体重量が軽いために,飛行の安定性に不安がある.このため,複数台導入することを計画している.ドローンに対する予算見直しにより,さらに多数の気象観測測器を導入できる可能性が出てきた.したがって,2022 年度に追加的に地上測器設置を行う可能性が高い.
伊豆諸島における観測地点の環境現地調査において,他の機関や企業が気象測器を設置していることが判明した.さらに,本研究計画に並行して関連の深い他の研究プロジェクトが 2022 年度より開始する.自治体による観測データの一部については既に一部データの無償提供を受けている.その他の機関・企業観測データについても,無償もしくは有償でのデータ提供を交渉する予定である.このことで,より稠密な観測ネットワークを予算面で効率的に構築できる可能性がある.したがって,予定以上の研究成果が得られるよう進めていく予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
「現在までの研究進捗状況」において述べた通り,2021 年度に耐水ドローンを新たに導入する予定であった.しかし,新型コロナウイルス感染症の蔓延のため,ドローンの製造所がある中国南部でのロックダウンの影響を受けて,まだ入手できていない.このことが,研究予算を 2021 年度中にすべて執行できなかった大きな原因である.
2022 年度は,次年度使用額分を用いて「今後の研究の推進方策」で述べた代替の耐水ドローンを購入する.代替ドローンが当初想定よりも安価な場合は,地上観測点の充実のための測器購入や,他機関・企業からのデータの有償提供に用いる予定である.
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