研究課題/領域番号 |
21K01020
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研究機関 | 青森大学 |
研究代表者 |
櫛引 素夫 青森大学, 社会学部, 教授 (40707882)
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研究分担者 |
三原 昌巳 昭和女子大学, 人間文化学部, 講師 (50723889)
大谷 友男 富山国際大学, 現代社会学部, 准教授 (40321715)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 東北新幹線 / 北海道新幹線 / 北陸新幹線 / 新幹線通勤 / 医師確保 / 広域移動 |
研究実績の概要 |
東北・北海道新幹線および北陸新幹線の沿線において、医療機関のヒアリングに着手し、新幹線開業が地域医療に及ぼした効果の一端を確認することができた。成果は日本地理学会2021年秋季学術大会、2022年春季学術大会で報告したほか、その一部を弘前大学の学術誌に投稿した。また、新幹線の開業対策や誘致に取り組む地域で実施した依頼講演で成果の一部を活用し、社会に還元した。 まず、新青森駅前のA病院は、函館市の医療法人が2017年、北海道新幹線開業を契機として青森市内の2民間病院の経営を引き継ぎ、統合して新病院を開設した事例である。地元で手薄な脳カテーテル手術を手掛けており、当初は、医師が函館市の本院から新幹線で駆けつけて年間30例の手術を行っていた。この間、スタッフの医療技術が向上する効果もあった。また、多数の非常勤医師が東北新幹線を利用して首都圏から定期的に通勤している。 一方、飯山駅(長野県)の駅前に建つB病院は、北陸新幹線開業後に医師のリクルート体制を整えたことで、広域的な新幹線通勤による医師確保に成功した。飯山市は独自に医学生向け奨学制度を設けており、病院側と緊密に連携して医師の充足率向上を目指している。 上越妙高駅(新潟駅)に近いC病院も、首都圏や北陸地域から新幹線通勤する医師の確保に成功している。医師の働き方改革を実現するには、休日を担当する非常勤医師の広域的な確保が重要との認識を確認できた。 以上のように、新幹線開業によって、地域の医療環境が大幅に改善される事例を確認できた。医師の側も、働く場所や働き方の選択肢が増える利点がある。ただし、供給側の事情で、医師確保ができず休診を余儀なくされている診療科もある。また、看護師など医療スタッフ採用にも新幹線の存在が貢献しているとみられるが、医師以外は新幹線通勤の対象となっていない。さらに、新幹線による患者の域外流出も起きていると推測される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
COVID-19の影響を考慮し、医療機関への負担にならないよう、慎重に調査活動を進めている。結果的に、3つの医療機関に直接、ヒアリングを実施することができたのは大きな収穫だった。また、新聞記事データベースの精査によって、新幹線開業に伴う医療活動の変化事例を何件か確認できた。他方、IGRいわて銀河鉄道へのヒアリングなどを見送った。また、日本国内を網羅する医療データベースを2次医療圏の分析に使用する構想だったが、購入手続きのスタートが予定より遅れ、研究の順序を入れ換えたことなどから、精査に至っていない。以上の状況から、全体的にみて、当初の見通しよりは、やや遅れていると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
情報収集とヒアリングを継続するとともに、1年目に十分できなかった新幹線沿線の調査、特に並行在来線・いわて銀河鉄道による地域医療の取り組みなどの検討などを進める。また、新聞記事データベースによる情報収集の結果、対象地域としていた北海道・東北、北陸新幹線沿線に加えて、九州新幹線沿線でも注目すべき事例が見つかった。このため、環境が許す範囲で、九州地域も視野に入れ、情報収集を進めるとともに、可能な範囲でヒアリングを実施する。 他方、これから新幹線が開業する道南地域や北陸新幹線・金沢-敦賀間とネットワークづくりの端緒ができたことから、2年目、3年目のアウトプットへの下地づくりを兼ねて、現地の動きやニーズを把握する。櫛引・大谷が所属する東北・北海道新幹線の研究者グループ「北海道新幹線研究連絡会」、同じく北陸新幹線沿線の研究者や実務者がつくるネットワーク「北陸新幹線沿線連絡会」、さらに協力関係を構築しつつある福井県敦賀市との連携を強化する。 初年度は学会発表や投稿にこぎ着けたほか、一般向けの講演などの形でも調査結果を還元できたため、引き続き、各種のアウトプットに努める。 一方、二次医療圏データベースの分析がやや遅れていることから、COVID-19による医療環境の変容も意識しつつ、分析に力を入れる。また、COVID-19により1年目の実施を見送った医療機関アンケートについては、現場の混乱が長引いていることを考慮し、実施の可否や形態、質問内容、代わり得る調査手段などを検討する。2年目に実施を検討していた報告会は、時期や形態、対象を見極めつつ、実現の道を探る。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19により当初予定ほどの現地調査ができなかったため、旅費の執行額が予定額を下回った。また、データベース検索費用として3人それぞれに計上していた「その他」について、櫛引が主にとりまとめて検索を行ったため、執行額が予定額を下回った。 これらは、2022年度の旅費および人件費・謝金に使用し、現地調査を充実させるとともに、実施を計画している病院アンケートの作業に充てることを想定している。
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