研究課題/領域番号 |
21K01028
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
林 紀代美 金沢大学, 人間科学系, 准教授 (70345643)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 食 / 地域 / 質 / 認識 / 風景 / 変容 |
研究実績の概要 |
年度前半には,福井県奥越地域の「半夏生鯖」を事例として,アンケート調査を進めた。年度中盤に回収データを考察し,地域漁業学会大会で報告した。その結果を,地域漁業研究に投稿し,現在,受理後の印刷待ちの段階である。江戸期に大野藩域で始まった半夏生に体力回復・増進を期待して食するようになった姿焼きの鯖(はげっしょさば)が,現在でも行事食として好意的評価をされながら地域で食されている。明治以降に摂食習慣が広まった隣市の勝山市域でも,多くの人が摂食し,食材や食習慣を好意的に評価している。購買・喫食状況には,量販店での販売促進の影響や鮮魚店の専門性への評価,鯖を焼く煙やにおいが地域らしい景観と評価される傾向がみられた。習慣や食材の発祥地である大野市と,後に普及した勝山市で,半夏生鯖文化に対する地域意識に若干のちがいがみられた。 年度中盤には,石川県奥能登地域(今年度は,能登町・穴水町を対象)の水産発酵食の喫食・購買および非経済的な食品のやり取りの実態把握と人々の認識の考察に取り組んだ。文化庁令和3年度事業「「食文化ストーリー」創出・発信モデル事業」に採択された「能登における発酵食文化の発掘・発信事業」(申請主体:能登広域観光協会)に関連して,「能登の発酵食研究会」座長を拝命したことを鑑み,知見収集を試み,研究会活動に還元した。アンケート結果の回収を終え,集計を進めている。次年度に,残りの珠洲市・輪島市で調査を実施し,それとあわせて考察し,知見の発信に努める予定である。奥能登地域では地域資源を有効活用し,バラエティに富む食環境を実現する水産発酵食が現在も活用されている。少子高齢化,食の多様化などの影響を受けてその製造・喫食量は縮小しているが,食材との接点の工夫,メリットの現在的視点からの再定義により,今後も地域で活用できる食材・食文化として評価可能である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時の計画に沿って本年度は,地域的・伝統的な食材や食文化を取り上げ,現状での消費実態と変容,人々の認識を考察に取り組んだ。具体的には,申請時には,今年度取り組む調査対象として長野県北部での年取魚調査を例として挙げていたが,より研究課題に合致した事例への注目に切り替えることし,福井県奥越地域の半夏生鯖を研究対象事例とした。年度当初計画した半夏生鯖に関するアンケート実施と結果の報告・発信が年度中に完了している。学会報告ののち,査読論文を学会誌に報告済み(印刷待ちの段階。令和4年度中に掲載予定)。年度途中より,能登の発酵食文化研究会の発足を契機として追加した奥能登地域の水産発酵食・食品のやり取りに関する調査についても、年度中盤よりアンケート調査を実施し,その回収と一部集計までは年度内に終了しており、次年度の続きのアンケート調査の実施にも目途がたっている。得られた知見は,研究会の調査報告(シンポジウムの開催や報告書の刊行の際の助言)に還元した。
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今後の研究の推進方策 |
研究の計画,実施方法などに大きな変更は計画していない。 次年度は,今年度の奥能登地域でのアンケート調査の続きを実施し、全体の成果のとりまとめ、発信に努める。また、年度内に、研究課題の追求のための新しい事例調査の活動を開始する(福井県永平寺町域における葉っぱ寿司の消費動向とその変容、人々の認識)。アンケート調査の実施と、成果の報告、論文執筆を計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度の予算執行では,印刷費の高騰などを受け,アンケートセットの作成経費に申請時の見積もりから変動・増額が生じたため,支出の際に科研で執行可能な部分までを対応した残金を基盤研究費で補填して対応した。その関係で、科研の今年度当初計画と比して若干の残金が生じた。この分は,今年度実施した奥能登地域でのアンケートの続きとなる次年度の輪島市・珠洲市での同様の調査の際に、アンケートセットの印刷費に充当して活用する。
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備考 |
地域漁業研究(査読有・受理)の62巻1号に、林紀代美「福井県奥越地域における半夏生鯖の食実態と人々の認識」(2022年前半に刊行予定・ページ等未確定)
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