研究課題/領域番号 |
21K01029
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
武者 忠彦 信州大学, 学術研究院社会科学系, 教授 (70432177)
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研究分担者 |
大呂 興平 大分大学, 経済学部, 教授 (50370622)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 地方都市 / 都市のスポンジ化 / ライフコース / 家産 / 家業 / 継承 |
研究実績の概要 |
2022年度は,地方都市近郊農村における「安定兼業」の変容に注目し,大分市郊外の集落を対象に,家の継承の変容と,その地域の社会経済へのインパクトを分析する研究を中心に調査を進めた。安定兼業とは,農外就業先で世帯としての必要所得を確保しつつ,零細に水田農業を営むという,日本の多くの農山村に卓越していたある種の生活様式である。安定兼業は高度経済成長期以降,地方の農山村でも農外就業機会が拡大し,農業の機械化による省力化が進むともに,急速に進展した。これは先祖代々の土地で子が家業や家産を継承するといったイエ規範に支えられたものでもあった。安定兼業では,親世代は主に農業に従事し,子世代は農外就業に就きつつ休日や終業後にこれを手伝い,世帯としての必要所得を得つつ農地が守られていた。また,三世代同居により新しく住宅を求める必要もなく,大きな可処分所得が得られた。しかし,こうした家業・家産・世帯員の再生産のありようは,近年大きく変化している。当該集落では,2世代で住む家は消滅していたが,分家住宅の特例を背景に,子世代夫婦には通勤・子育てに好適な居住地として世帯が再生産されている。農業はほとんどが継承されていないが,子世代の居住環境の範囲では草刈りなどにより農地が保全されている。こうした子世代の行動には家継承をめぐる規範意識は希薄であり,規範から離れた子世代の就業・居住の論理が,地方都市と後背農村の空間・社会を作り替えていることが看取された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度は新型コロナウィルスの影響で延期していた家産継承に関する聞き取り調査について,大分県内では調査対象地区の全世帯および土地・建物所有者を対象に,対面式アンケート調査を実施することができた。また,長野県内の調査対象地域においてもパイロット的なヒアリング調査を実施した。大分県の事例については学会発表を行い,論文投稿に向けて調査結果をとりまとめることができた。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度の調査の進捗をふまえ,2023年度は大分県の事例について論文を投稿するとともに,長野県の事例についても調査対象地区の全世帯および土地・建物所有者を対象に,対面式アンケート調査を実施し,論文を投稿する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
郵送式によるアンケート調査を予定していたが,対面による調査が実施できたことに加え,データ入力も当初の予想よりも人件費がかからなかったため,次年度使用額が生じた。翌年度分としては,調査対象の地区や世帯を予定よりも増やすための費用に充当する予定である。
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